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俺にとって一番辛かった瞬間はお前に裏切られたあの時だ

例えその人の為にとってこれが最善と信じ、結果非情な行動だったとしても相手がそれを納得するとは限らない。相手にその想いが、本心が通じなければそれはただの非情な裏切りにしか思われない。後悔しても時間は巻き戻らない……。


 どうして…どうして今更お前が自分の目の前に現れるんだ? しかもどうしてそんな〝嬉しそう〟な顔をして自分を見つめているんだ? 俺を故郷から追い出したのは他でもないお前のはずだろうに。それなのにどうして今の今まで再会を待ち望んでいたような顔をして自分の前に姿を現せれるんだ?


 震えるムゲンの前にはかつて誰よりも仲が良く初恋の人であった幼馴染のミリアナ・フェルンが涙を流しながら立っていた。

 

 「ああ…やっとあなたと再会できた。ずっと逢いたかったよムゲン」


 ゆっくりと歩み寄ってきてミリアナはムゲンの頬へと手を伸ばして触れる。

 自分の頬に伝わる体温によってようやくムゲンはやっと我に返る。そして正気に戻るとすでに眼前まで迫っていたミリアナの顔を見て思わず彼の口から出たのは〝悲鳴〟であった。


 「うおあぁぁぁぁぁぁ!?」


 「キャッ!?」


 気が付けば男としては情けの無い声を上げながらムゲンは思いっきりミリアナの体を押し飛ばしていた。

 完全に無抵抗だった彼女はその場でたたらを踏んでダンジョンの床下に尻もちをついてしまう。そして自分に対して攻撃的な反応を見せた彼に戸惑いの色を表情に浮かばせる。まるで自分が何故受け入れてもらえないのか理解できていないそのミリアナの顔を見てムゲンは思わず下唇を噛み血を流していた。


 「な、何で…何でお前がこのダンジョンに居るんだよ!?」


 「どうしたのムゲン? もしかして私の事を忘れちゃったの?」


 拒絶されてしまったミリアナは悲しそうな表情を浮かべながらゆっくりと立ち上がる。そして困り顔で笑みを浮かべながら相も変わらず優し気な声色で話しかけ続けて来た。

 

 「長い間ずっと顔を合わせていなかったから見た目は少し成長して変わってしまったけど私だよ? 同じ村で育った幼馴染のミリアナ・フェルンだよ? 私の事…まさか忘れちゃった訳じゃないよね?」


 「そんなことわざわざ言われなくても知っているに決まっているだろうが! 俺を村の連中たちと一緒になって疎外し、迫害し、そして悪意を向けて故郷から追い出した人間を俺が忘れるかよ!! むしろ忘れられるものなら記憶から抹消したいぐらいだ!!」


 最初はかつての孤独に苛み続けたトラウマがフラッシュバックして震えていたムゲンであったが、落ち着きを取り戻すと次に彼の中に湧き上がるのは激しい〝怒り〟の感情であった。平然と自分を裏切り村から消え去る様に口にし続けた女、その顔と声だけで心の内にある黒い怨嗟の炎を燃え上がらせるには十分だった。

 できる事ならこの先の人生の中で彼女と再会など果たしたくなかったが、もしも彼女が何食わぬ顔で目の前に現れた時が来たのならばどうしても言っておきたい事があった。


 「どうして……どうして俺を村から追い出したんだミリアナ? 何があっても自分は味方だと言っておきながらどうしてあんな裏切り方をした? 所詮お前の励ましの言葉も全てが偽りだったのか?」


 吐き気が込み上げてくる忌々しい凄惨な過去、その一番の理由である幼馴染の豹変した理由を問いただしてやりたかった。誰よりも仲良くしていたはずの自分を結局は他の村の人間と同じように〝怪物〟と罵り石を投げるようになって見捨てた。こうして再び相まみえたのならばその理由をちゃんと訊いておきたかった。


 「やっぱり恨んでいるよね。うん…当然だよね、でも聞いて欲しいのムゲン。私だって本当はあんな事はしたくなかったの」


 「はあ? 本当はしたくなかっただと……じゃあどうしてそのしたくなかった裏切りを働いたんだよ!!」


 できる限り平静を維持し続けようと思っていたが無理だ。こんなセリフをいけしゃあしゃあと言われてしまうと感情が荒波の様にうねって抑えが利かない。気が付けば自分は怒鳴り声を上げながら子供の様に激情を赤裸々に口から吐き出していた。それがみっともない行為だと頭では理解しても心の方には歯止めが利かなくなっていた。

 ムゲンの口から出て来る一言一言が耳に入る度にミリアナはその顔を悲しみに歪ませながら過去の自分の過ちの真実を語る。


 「私があなたに辛く当たるようになった前日、私の両親はあなたを殺す計画を企てていたの。しかも村の大人は秘密裏に密談まで行いあなたをどう殺すか相談していたとも言っていたわ。あのまま村に留まり続けていればあなたは殺される。そう思って私はあなたを一刻も早く村から逃がすべきだと考えたの。それが…私があなたを拒絶した理由……」


 「そんな話を信じろと言うのか? 俺には今のお前の話が適当な理由付けだとしか思えないぞ。村の大人に白い目を向けられる毎日は確かに辛く苦しかったよ。でもな…あの頃の俺が一番苦しみを感じたのはお前に裏切られたあの日あの瞬間なんだよ! 肉親以外で唯一味方だと思っていた人間に手の平を返された〝あの瞬間〟があの村でもっとも辛い瞬間だったんだよ!!」


 そう言うとムゲンは背を向けてその場から当初の目的であるダンジョンのさらに下層を目指そうとする。

 ようやく巡り会えたムゲンに拒絶されてしまいショックを受けるミリアナではあるがここで彼を引き留めなければもう二度と自分と彼の関係の修復は不可能だと彼女は本能で理解した。


 だから彼女は去り行く彼の背中に手を伸ばしムゲンの肩を掴もうとした。


 「気安く触るな裏切り者!!」


 だが彼の口と行動は完全なる拒否であった。裏切り者と罵りながら自分にあさましく伸ばす手を叩き落とした。


 そのままムゲンは振り返る事もせずミリアナの前から去っていく。その後ろ姿を呆然と見つめながら少女は力なくその場で膝から崩れ落ちる事しかできなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 何事もなかったかのように話しかけるミリアナの神経を疑う。 事情を説明して村から脱出してもらうんじゃなくて 迫害して追い出すような真似をしたのか理解できない。
[一言] 個人的にはミリアナには4番目の恋人になってほしいなぁとは思います。もちろん筆者の書きたいように書いて頂くのが一番なのであくまで個人的希望ですが。 いやだって、これって現代の家庭を顧みない旦…
[一言] 思った通りやはり拒絶されましたね。自分だったらあんな醜い裏切り行為をした人間には二度とかかわりたくないですね。それがたとえ親しい人間だったとしても。
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