ついに再会するムゲンとミリアナ
入り口の蝙蝠擬きのモンスターを撃破してからと言うものムゲンは立て続けに多種多様なモンスターに現在進行形で襲われ続けていた。無論その全てを楽々と返り討ちにしたが。
あれから下の階へと降りていき今はダンジョンで言う4層のエリアまで降りてきていた。だがその最中にもムゲンは常に背後から〝懐かしい気配〟を感じ取り続けていた。
一体全体どうしたって言うんだ俺は? 常に背後から奇妙な気配の様なものを俺は本能的に感じ取り続けている。この感覚は一体……気のせいだろうか…俺はこの背後から迫って来ている〝人物〟を知っている…のか…?
正直モンスターに襲撃されるよりも背後から迫っている何者かの気配の方がムゲンにとっては気になって仕方がなかった。
「……このまま背後を気にして更に下層に行くのは危険だよな。 実際に下の階へと進めば進むほどにモンスターのレベルも徐々に上がって行っているし……」
今よりもモンスターのレベルがどんどん上がっていくならばこのまま背後から感じる違和感を無視は出来ないと思いムゲンは一度足を止めて正体を確かめる事にした。
彼がこの場に留まった理由、それは自分の中の胸に漂い続ける靄を晴らしたかったからだ。背後から感じ続けるこの〝懐かしい〟感覚、その理由を知って精神的にスッキリして下層を目指そうと思っていた。だが彼はこの後やって来る人物を前により心を乱されてしまう事をまだ知らない。
◇◇◇
「どうやら既に誰かがこのダンジョンを先行しているようね」
道中で襲い掛かるモンスターを悠然としたまま斬り捨てていきながら、ミリアナはここまでの道中で撃退されているモンスターの遺体を見てそう呟く。
この第4層のエリアに来るまでダンジョン内の道中で多くのモンスターの遺体が転がっていた。これはかなり腕の立つ実力者が自分達よりも先にこのダンジョンへと足を踏み入れている証拠でもあった。
それにしてもやっぱりダンジョンを進むにつれて私の中の違和感が少しずつ膨れ上がっている気がするわ。一体この〝懐かしさ〟は何なの? この先に私の知っている何者かが待ち構えている様な気がして仕方がない……。
ダンジョンへと突入前からミリアナは言葉に出来ない〝懐かしさ〟をダンジョンの中から感じ取っていた。その感覚はドンドンと膨れ上がりそれと同時に何故か〝愛おしさ〟まで胸の中に滲みだしていた。
誰なの……この先で一体誰が私の事を待っていると言うの?
「いやぁどういう訳かモンスターがほとんど倒されていてラッキーでしたね。でももしもの事もありますのでミリアナさんもいざと言う時は遠慮せず自分を頼ってくださいね。ここまで同様に自分が必ず最後まで守り切って見せますよ!」
「本当にモブルは頼もしいよねぇ」
「私達を守りつつ無傷でここまで到達出来るなんて流石だよぉ」
「こーんな強くて素敵な人がリーダーだと私達もどんな危険な場所でも安心できるわ」
ここまで襲い来るモンスターの半分以上をミリアナが倒していたにもかかわらずまるで自分が奮戦してきたかのように語るモブル、そしてそんな彼に惜しみない称賛の言葉をベタベタと必要以上に抱き着きながら彼の女であるパーティーメンバー達が送る。
普段であればかなりの鬱陶しさから溜息をつくところだが今はそれよりも徐々に大きくなる自分の中の違和感の方に意識が傾いていた。
近い…自分の中の〝物懐かしい〟感覚が大きくなっていく。胸の鼓動音が何故だか大きくなり、呼吸が少しずつ乱れ始める。
「大丈夫ですかミリアナさん? 何だか呼吸が優れてないような気が……」
隣でモブルが何かを言っている気がするが今はどうでも良い。
その時、自分達の進行先の通路の奥から少年と思しき声が聴こえてきた。
――『そこに誰かいるのか?』
ミリアナの鼓膜を震わせたその声を聴いて気が付けば彼女は脚を動かし、その場から全速力で声の方まで走りだしていた。
「ミ、ミリアナさん待って!?」
背後からモブルが呼び止めるがまるで耳に入らない。
知っている…この声の主を自分は良く知っている!! もうかれこれ数年もの間、一切顔を見る事すら出来なかったがあの一言だけでこの奥に居る相手が誰かなんて理解できるに決まっている!! ずっと謝りたかった!! ずっと再会を待ち望んでいた!!
正直、もう二度と彼と巡り会う事はないのではないかと半ば諦めつつあった。定期的に自分と彼の故郷である村に戻っても彼は一向に帰って来てくれる気配すらなかった。でも、でもでもでもこの先に居る!! この先にずっと再会を待ち望んでいた〝彼〟が待ってくれている!!!
後ろから追いかけてきているであろうモブル達を置き去りにして声の発生源を辿ると少し広々とした場所へと出て来た。そこには1人の人物が立っており呼吸を乱しながらやって来たミリアナを見て驚いていた。
「ど…どうしてお前がここに……」
相手の少年はミリアナの顔を見ると信じられないと言った様子で思わず後ずさる。
「はあ…はあ…はあ……」
息を乱しながら遂に声の主の元まで辿り着いたミリアナ。そしてそこには予想通りの人物が自分の事を待ってくれていた。
「ああ…やっぱりあなただったんだね……」
喜びのあまりミリアナの眼からは涙が滲んだ。
彼女の潤んだ瞳の先には成長を果たして逞しくなった幼馴染であるムゲン・クロイヤが立ってくれていたのだった。
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