近づく幼馴染との再会の時
ついに連載100話になりました。今後もこの作品を応援してください。そして……ムゲンとミリアナの再会の時も近づきつつあります。
人間嫌いと有名なSランク冒険者ドール・ピリアナの住んでいる屋敷の結界を突破したムゲンとアルメダの二人であったが結界を破ると同時に屋敷の扉が開く。
屋敷の中から現れたのは先程にムゲンがギルドへの道順を尋ねた際に拒否されてしまったあの2色ヘアーの女性であり、まさかの再会にムゲンが驚きを顔に出す。もう二度と顔を合わせる機会などないと思っていたがこんなにも早く再開するとは……。
少し呆気に取られているとドールは心底めんどくさそうな表情を向けて口を開く。
「何を馬鹿面を垂れ下げながら突っ立っている訳? 私に何か用があるから結界を壊してズケズケと私の元までやって来たんでしょ? 結界を超えた相手なら死ぬほど面倒だけど相手してあげるわ」
『凄いわねアイツ。ここまで堂々と他人を毛嫌いする姿勢を崩さないなんて筋金入りの人間嫌いの証よ』
「そうだな。まあ話に聞いていた通り結界を越えた相手なら要件を聞いてはくれるらしい。彼女の気が変わらないうちに屋敷の中にお邪魔させてもらおう」
自分に話しかけて来たアルメダに対して返事を返すムゲンであるが霊体のアルメダの姿はドールには視認できていない。
「何を一人でブツブツと言ってるの? 気持ち悪いから独り言はやめてくれる?」
◇◇◇
「なるほど興味深いわね。ここまではっきり視認できる霊体なんて初めて目にしたわ」
『あんまりジロジロと見ないで欲しいんだけど…』
「それにもう1人も人間と竜のハーフね。なるほど…あの結界を魔法などではなく物理的にぶち壊せたのも妙に納得だわ。面白い組み合わせね」
話をする前までは億劫そうな表情をしていたドールであったが二人の素性を聞いて興味深そうな顔をしていた。その表情はどこか好奇心が旺盛な子供のようでもあり、こんな顔も出来たのかと意外に思った。
屋敷の中へと案内されたムゲンは早速だがここまでやって来た要望を伝えた。
1つ目は霊体であるアメルダの依り代となる肉体の作成、そして2つ目は自分の竜の力を抑制し封印する魔道具の作成であった。
「今回ドールさんにはこの2点の魔道具の作成を頼みたいんだ」
「なるほどねぇ。依り代の肉体と封印術を帯びた魔道具ね。まあ作ろうと思えばその程度の代物なんて作れるわ」
その言葉にムゲンは顔にこそ出さないが驚いていた。
決して魔道具の専門と言う訳ではないが今自分が要求した物は簡単に作り上げられる代物ではない。だが彼女は特に悩む様子も見せず訳ないと言った感じであっさりと了解をしてくれたのだ。
伊達に魔道具を作り出す天才と言われてはいないようだ。
「でも私もボランティアをしている訳ではないの。無料であなたの要望を叶えてあげる気はないわ」
「それは重々承知だ。それ相応の謝礼は出すつもりだ」
そう言いながらムゲンは金貨を詰め込んでいる袋を取り出そうとするがドールが首を振って差し出される金銭を拒んだ。
「お金ならいらないわ。別に私は生活に困っている訳でもないし…」
『まあこれだけ大きな屋敷で生活しているぐらいだからね。そりゃお金には困ってないでしょうよ』
「そう、老後までの貯蓄は既に済んでいるのよ。それよりも私が今欲しいのは〝金銭〟ではなく〝素材〟なの。あなた達の望みは叶えてあげる。だからあなた達も私の望みを叶えてほしいのよ」
「何が望みなんだ……」
何やらムゲンは嫌な予感がして仕方がなかった。
なまじ大仰な値段を提示されるよりもこのような正体の見えない形の見返りを求められる方が不気味だ。
じんわりと手の中に滲む汗をズボンで拭きながらムゲンが固唾を呑んでいるとドールは自分の要求を提示した。
「私は今とある魔道具を製造しているわ。その為には〝竜〟の鱗や牙、そして肉や血液などと言った素材が必要なのよ。あなたの求める物を作ってあげる代わりにその素材を用意してほしいのよ」
「りゅ、竜の肉体と言っても……」
予想以上にハードな交換条件を提示されてムゲンの顔が引き攣ってしまう。それも無理ない事、この付近に竜など生息しているとも思えない。そもそもドラゴンは自由な種族であり他の種族の様に群れをなす事も珍しい。
何か他の条件を頼もうかと思っているとドールが1枚の地図を机の上に広げた。
「このトレド都市を出て少し離れた場所に最近新たなダンジョンが出現したわ。そのダンジョンは私の所属しているギルドの冒険者達が何人も調査に向かった。でもそのダンジョン内はレベルの高いモンスターが大勢住み着ているらしくてね未だ攻略されていないわ」
「……まさかそのダンジョン内に竜が居るのか?」
「そう…Aランク冒険者のパーティーが命からがらダンジョンの最下層に辿り着いたらしいのよ。そしてそのダンジョンの最奥には巨大な宝箱があったそうよ。でもその宝を守るかのように1体の竜がまるで門番の様に立ちはだかっていたらしいわ。その竜から唯一生き残った冒険者の証言よ」
「つまり…その竜から素材を調達してこいと?」
ダンジョンは未だに解明されていない未知の部分の方が遥かに多い。今回の様に何の前触れもなくダンジョンは出現し、その中で生息しているモンスター達はどこから来たのか? そのダンジョン内の宝は誰が用意したのか? まるでその謎は解明されていない。だが今重要なのはそのダンジョン内にドールの求める竜が居ると言う事実だけだ。
『ちょ、ちょっとムゲン、あんたドラゴンと戦う気なの? かなり危険な戦いになるわよ』
「分かっている。でもそうしなければこの人は俺達の求める物を用意してはくれない……でしょ?」
「大正解。私は条件の変更は一切するつもりはないわ」
やはりアルメダの肉体を用意するには竜と一戦交えるしかないようだ。
机の上に置かれた地図を懐に入れるとムゲンは決意を固めて二人に言った。
「アルメダさんは少し待っていてくれ。俺は今からこのダンジョンへと向かう。それまでの間だがドールさんも彼女をこの屋敷で待たせてもらえるか?」
「まあ幽体の女の子なら生身の人間より迷惑掛からないし許可してあげる。あっ、ダンジョンに行くならコレを持っていきなさい」
そう言われてムゲンが手渡されたのは1つの大きな袋であった。
「私が作り出した魔道具の一種よ。その袋は私の工房と繋がっているから退治した竜の全身だって収容できるわ。それともう1つ伝えておくことがあるわ。さっきも話したけど目的のダンジョンは今も【コマース】のギルドが攻略に赴いている。どうやら腕の立つ冒険者がダンジョンに向かっているそうなの。別にダンジョン攻略やそこに眠っている宝はどうでも良いけど先に竜を退治されてその遺体を持って帰られるのは困るのよ」
「なるほど…行くなら急いで行けと…」
◇◇◇
ムゲンがドールから急かされて目的のダンジョンへと赴こうとしていたその頃、ドールの言っていた通り【コマース】のギルドからは二組の冒険者チームがダンジョン攻略に赴こうとしていた。
1組はAランクパーティーであるモブルと言う美男子が率いる4人組のパーティー。
そしてもう1組はSランク冒険者でありソロで冒険者活動を行っている〝戦姫〟と呼ばれる女性《剣士》のミリアナ・フェルンであった。
「いやぁ未知のダンジョン攻略をあの〝戦姫〟ミリアナさんとこなせるなんて光栄です。どうです、このダンジョン攻略の後は今度こそ一緒にお食事を…ああちょっと待ってください!?」
女癖の悪いモブルは馴れ馴れしくミリアナを食事に誘うがすでに彼女はギルドを出て先にダンジョンへと向かっていた。
「(よりにもよってあんな奴と一緒なんて最悪だわ。はあ…これなら私だけで行きたかったわ…)」
ダンジョン内のモンスターはどこから出現したかは不明だがダンジョンの外に出て来る危険性を持っている。しかも今回出現したダンジョンには竜まで住み着いているそうなのだ。ダンジョン外への被害を未然に防ぐために【コマース】はAランクとSランクのチームを向かわせる事を決断した。それは分かるがミリアナとしてはモブルとはできれば関わりを持ちたくなかった。
「(さっさと片づけて終わらせよう…)」
そう思い気持ちを落ち着かせるミリアナであるが彼女はダンジョンに潜る直前に予想もしなかった人物と遭遇する事となる。
もう数年もの長い間、どこに居るとも分からなかった〝幼馴染〟とのまさかの再会。それはミリアナの精神をかつてないほどに動揺させる事となる。
同じ村で育ったムゲン・クロイヤとミリアナ・フェルン……二人の再会はこの1時間後に果たされる事となる。
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