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S難易度の依頼 


 かつての仲間であるマルクとの決闘からしばし時間は経過しムゲンのギルド内での評価は徐々に変わりつつあった。今まで彼は【真紅の剣】の完全なお荷物だと周囲からは思われていた。しかしこの間の勝負結果を見れば彼が本当にお荷物なのか疑問視する者達が増えてきた。それによくよく考えればムゲンが無能なのであればSランクのコンビとチームを組めるというのもおかしな話だと考え始める者も居た。

 そして一方で【真紅の剣】の株は下降して行っていた。リーダーであるマルクの無様な負けっぷりからあのパーティーの本当の無能はマルク達であり、ムゲンはやっかみを受けて他の3人にクビを宣告されたのではないかと思われ始めているのだ。


 あれ以来ムゲンは【真紅の剣】のメンバーに絡まれることもなくなった。というよりも今のマルク達にはかつての仲間に突っかかる暇すらないと言ったほうがいいだろう。無能扱いしていたムゲンに敗れ一気に自分たちの評価が下落、名誉挽回のために彼らは依頼を受け続けているのだ。もうムゲンを相手に嫌味を言う余裕すらないのだ。

 しかしギルド内の噂ではどうやらあの決闘以降もマルク達は依頼が失敗続きらしい。その話を聞きソルは『ざまあみろ』と小馬鹿にしていたが腐ってもかつての仲間だ。時折あの3人がうまくやれているか考えてしまう。


 一方で依頼失敗続きの【真紅の剣】とは違いムゲン達は今回も無事に依頼を達成しギルドに依頼完了の報告をしていた。

 依頼達成の報告を受付嬢にすると彼女は笑顔でムゲン達に労いの言葉を掛けてくれた。


 「ご苦労様です。それにしてもさすがはSランクの冒険者ですね。B難易度の依頼をこうも早く達成させるなんて」


 Sランクパーティーである【黒の救世主】がB難易度の依頼を達成する事自体は驚くことでもない。しかし彼らの依頼達成速度は他の冒険者チームを遥かに上回る。ほかの冒険者達が1つのB難易度の依頼を完了させる間にムゲン達は2つ、多ければ3つの依頼をこなしているので彼らの実力の高さが伺える。

 

 「さーて、じゃあ宿に戻る前に次に受ける依頼を決めておくか?」


 受付でやることを済ませるとソルは掲示板の方を見ながら次の依頼を今のうちに見繕っておくかどうか尋ねる。

 特に異論もないのでムゲンとハルの二人も掲示板の方まで足を運ぼうとしたのだが突然ギルドの入り口から大声がギルド内に響き渡った。


 「だ、誰か助けてくれ! 俺の仲間たちが捕まったんだ!!」


 突然の大声に何事かと振り返るとそこには全身の至る所が傷だらけで満身創痍の青年冒険者が立っていた。見る限り出血量も多く血を流しすぎたのか青年の足はふらついており顔色も最悪。今にもこの場で崩れ落ちそうだが彼は歯を食いしばりながらギルド内に助けを求める。

 その青年から一番近くの冒険者達が彼を介抱しようとその場で彼を横にする。そこへ受付嬢の女性も駆け寄ってきていったい何があったのか尋ねる。


 「あなたは確かB難易度のモンスター討伐の依頼に出ていた方ですよね? 他の仲間の方々は…」


 「はあ…はあ…な、仲間達は全員捕まっちまったんだ。あの女に……」


 「捕まった?」


 青年の言葉に女性は眉根を寄せる。

 確か彼の受けた依頼内容はここから少し北西にある小さな村に出没するレッドボアと言うモンスターの討伐のはずだ。レッドボアは彼クラスの冒険者からすればそこまで手を焼くレベルではない。数が多いということで依頼難易度はBと設定されてはいる。だがそれ以上の難易度の依頼を彼のパーティーはこれまで何度もこなしてきていた。それに彼以外のメンバーはどうしたのだろうか? 何やら捕まったと言っていたが……。


 そんな受付嬢の疑問に答えるかのように青年は自分たちの身に何があったのかを話し始めた。


 「依頼を受けた村の外れにある広々とした洞窟、そこにレッドボアの巣があったんだよ。俺達はその洞窟に入って問題なくレッドボアを退治できていた。でも…洞窟の奥からあの女が現れたんだ」


 「あの女とは?」


 「……ソルド・カメアが居たんだよ」


 青年の口から放たれたその名前を聞いて受付嬢は思わず言葉を失ってしまった。それは彼女だけでなくギルド内の冒険者達も信じられないといった感じに息をのんだ。何故なら彼の口から出てきた人物名は『もうこの世にいない』はずの人間の名前なのだから。


 「そっくりな人間と見間違えたなんてオチじゃないのか?」


 静まり返ったギルド内で最初に沈黙を切り裂いたのはソルであった。

 彼女はどこか疑いの眼差しを向けながら青年にそう返すと嘘を吐いていると思われた事が心外だったのか青年は息を荒げて言い返す。


 「本当だ! 間違いなくかつてこのギルドに所属していた『Sランク』冒険者だった《魔法剣士》のソルド・カメアが俺達の前に現れたんだよ! そして俺の仲間を攫っていったんだ!!」


 この冒険者ギルドのSランクの称号を持つパーティーは全部で3つ。だが冒険者職業は命の危険と隣り合わせでありいつ誰が命を落としてもおかしくはない。たとえそれがベテラン冒険者でも同じことだ。そして青年の口から出てきたソルドと言う人物は生前にこのギルドで名を轟かしたSランクパーティーのリーダーを務めていた女性の《魔法剣士》であったのだ。

 だが彼女は今から1年以上前にS難易度の依頼の中で命を落としたはずなのだ。依頼は無事に達成できたがリーダーが殉職したことで彼女を慕っていたパーティーメンバーは解散、そのままこのギルドからはSランクパーティーが1つ消えたのだ。ソルドのかつての仲間は冒険者を引退して今は皆がそれぞれ別の道を歩んでおり彼女のパーティーの武勇伝はいつしかギルド内でも薄れつつあった。それがまさかこのような形で冒険者達の記憶から蘇ったのは複雑なものがあった。


 青年の口から語られた事実はいまだにギルド内を混乱させていた。その中でもソルはどこかやりきれないような苦々しい顔をしていた。


 「何だかソルのやつ様子がおかしいがどうしたんだ?」


 ソルドと言う人物はムゲンも知ってはいるが直接面識は無いのでショックよりも驚きの方が大きい。そしてギルド内の大半が自分と同じような感じだ。だがソルは今の話にただ動揺しているだけでなく悲痛そうな顔をしている気がする。

 そんなムゲンの疑念に答えるかのようにハルは悲しげに目を伏せながら訳を語りだす。


 「まだ私たちが駆け出しのころにソルはソルドさんに同じ《魔法剣士》として少し指導を受けていた時期があるんです。愛弟子、と言うまでではありませんがお世話になった恩があるので思う部分があるのでしょう」


 視線をソルの方へと向けると彼女はいまだに険しい顔をしている。そして横になっている青年に近づくと彼女はソルドが現れた村の場所を聞き出そうとする。


 「お前の依頼に向かった村への道順を教えろ。今すぐ私がそこまで出向いて確かめてやる」


 自分の目で真偽を確かめようと依頼を出した村まで直接出向こうと決意するソルだが受付嬢は少し焦ったような声を出して引き留めようとする。


 「待ってください! 彼の話が本当ならこれはもう難易度Bの依頼とは言えません!」


 「だったらなおさら私がその村まで足を運ぶべきだろ。私はソルドと同じSランクだ。それにこいつの仲間がそのソルド擬きに攫われたってんならそっちの方も見過ごすわけにはいかないだろ」


 「し、しかし…」


 確かにこの1件をこのまま放置しておくべきでない事は受付嬢もわかっている。彼女の言う通りこのギルドのSランク冒険者が関与しているならばこちらも同じくSランクをぶつけるべきだろう。それに捕まった青年のパーティーメンバーや依頼を出した村も心配だ。

 

 「でしたら彼の受けた依頼の引継ぎ権を私たち【黒の救世主】に渡してもらってもいいでしょうか」


 どう判断すべきか悩んでいる受付嬢にハルは決意のともった瞳を向けてこの依頼を自分達のパーティーに任せてもらいたいと頼み込む。

 その考えはムゲンも同じで彼もハルに続いてこの件を自分達に任せてもらいたいと続けて頼む。


 「いいのか二人とも? 私はソルドと過去に関係があるが二人は違うだろう。私のわがままに無理して付き合う必要はないんだぞ」


 自分ひとりでカタを付けようと考えていたソルがそう言うとムゲンは小さく笑ってこう返した。


 「何を言ってるんだ。お前が動くなら俺もハルも動くにきまってるだろ。同じパーティーの『仲間』なんだから」


 「そうです。このままソルだけに行かせる事なんてできません」


 「……助かるよ。ありがとな」


 二人のやさしさに対して小さく礼を言うとソルは受付嬢を見てこの件の真相は自分達で確かめると告げる。

 何を言っても考えを曲げないだろうと悟った彼女は一度うなずくとこのB難易度の依頼遂行の権利を【黒の救世主】へと譲渡を認める。


 「わかりました。では当初の依頼内容であるレッドボアの討伐及び前任の捕らわれた冒険者の救出、そしてこの冒険者ギルドに所属していた元Sランク冒険者のソルド・カメアを捕縛してください。依頼難易度はSクラスなので気を付けてください」


 こうして【黒の救世主】は急遽のS難易度の依頼を受けることとなったのだった。



 

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