少女は、愛する事より愛される事を選んだ。【中編】
誰かが言った。
女の幸せは、「“誰かを”愛する」事じゃ無く、「“誰かに”愛される」事だって。
――だったら私は、今、世間一般でいう処の、「女の幸せ」というものを掴んだんじゃないのだろうか?
「――の……な…の……名木野ッ!!」
「!?……へ…?」
「……俺の話、聞いて無かったろ?」
眉間に皺を寄せ、此方を睨み付ける恋人に、ちゃんと聞いてたよ!と、お得意の営業スマイルを浮かべ答えるも、彼の表情から“不機嫌”の三文字は消えない。其れもそうだろう。此処一週間――杉山隼人と付合い出した翌日から、杏子は何時も上の空で、全く彼の話に耳を傾けていなかったのだから。
――別に、杉山の話が詰らないとか、そーゆうわけじゃない。そーゆうわけじゃないけど………物足りない?
今迄片想いしていた相手が、年上のせいだったからだろうか。同級生の、特に男子との会話は詰らない、と改めて思った。
「………何、肥えてるんだか…」
「はぁ?肥えてる?」
意味が解らない、といった顔で、更に眉間に皺を刻ませる杉山に「何でも無い」と答え、杏子は顔を俯かせ、視線を足元へと向けた。
「オイ。下ばっか見てたら転けんぞ」
「大丈夫。気を付けてるか……のわっ!?」
「ほらっ!言わんこっちゃない…」
ったく何やってんだ、と頭上で聞こえた低い声に、ハッとする。転倒しそうになった己の腰に、自分とは違う大きな手が視界に入り、自分達の今の体勢が想像つく。
顔を上げれば、多分――いや結構、近くに杉山の顔があるだろう。なので、俯いた侭、取敢えず御礼を言う。すると、少しの間を置き、「おぅ…」という、ぶっきら棒な返事が聞こえた。
「………あのさ…」
「……ん?」
「……そろそろ……離してもらえる…かな?」
「え?……あっ、わりぃっっ!!」
顔を茹蛸の様に真赤に染め上げ、杉山は杏子から腕を離す。そんな彼の反応を視界に捉えた杏子は、可愛い、と思い、思わず吹き出した。
「……オイお嬢さん。何が可笑しいのか、オイラにも教えてもらえませんかねぇ?」
「ふふふ……い・や・だ」
「はぁ?!ちょっ…!?待ちやがれっ!逃げんなっっ!!」
肩越しに振り返りながら、走り続ける。其のせいで、ちゃんと前を見ていなかった杏子は、誰かとぶつかる。
「イタタ…あっ、すみま――」
口を、「せ」の形にした侭、杏子の動きは止まった。何故なら、彼女の視界に映るぶつかった相手は、今、もっとも顔を合せたくない幼馴染の青年だったから。
「何してんだ名木野!!……あの、大丈夫っすか?」
追い付いた杉山が、青年――良哉へと声を掛けながら此方へと近付いてくる。ソレを察した瞬間、杏子の体は無意識に強張った。
――嫌だ…知られたくない…っ
杉山と恋人同士になってからというもの、杏子は習慣の様にしていた、勝手に良哉の部屋に出入りする事も、正当に玄関から上がり込む事もしなくなった。何故なら、彼と顔を合わせるのが気まずかったのもあるが、――後ろめたい気持ちの方が強かったからだ。
「あー…大丈夫だよ。……其れより、“お嬢ちゃん”の方こそ大丈夫?」
「!」
膝を軽く折り曲げ、杏子の目線と同じ位の高さになると、良哉は、心配そうな顔で此方を覗き込んでくる。その余所余所しい扱いに、彼が、初対面に対する態度を取ってくれた事が分かる。
――合せてくれるんだ…
此方としては、有難い反応だ。――だけど、胸がキュウッと締付けられる様な感覚に陥ってしまう。
「よ――」
「うん。大丈夫みたいだね?“彼氏”すまないね。こんな、“可愛い彼女”を傷付けてしまって…」
此の、なんともいえないドロドロとした感情を拭いたくて、つい、普段みたいに彼の名を口遊もうとした。が、当の本人にソレを遮られる。
――良哉の奴……さっき、私の事、“可愛い”って、言ってくれた?
正確には、「可愛い彼女」なのだが、杏子にはそんなの関係ない。唯、嬉しい、彼にちゃんと女の子として扱ってもらった、という充たされた気持ちでいっぱいだった。
そして、決心がついた。
「や…あはは、彼女ってゆぅか……なぁ?」
杉山は、此方を振り返って、関係性の返答を委ねてきた。その表情は、何処か不安そうで、――哀しみを帯びていた。彼は、覚悟を決めていた様だ。
再び、クラスメイトの二人に戻る事を。
――ゴメン、杉山……其処まで、不安な思いにさせて…
杏子は、顔を俯かせ歯を食いしばってる少年の腕を取ると、己のソレを絡ませる。すると、見る見るうちに杉山の顔は紅く染まり出した。其れを認めると、杏子は少し驚いた様な表情で此方を見詰める男の方へと振り返り、不敵な笑みを浮かべた。
「“お兄さん”、解ってんじゃん。……其れに比べて、アンタは何時になったら、可愛い“彼女”に『可愛い』って言ってくれるわけ?」
そう言って俯いた杉山の顔を覗き込めば、真っ赤に染まった彼の双眼と目が合う。杉山は、「てめぇなんか全然可愛くねぇよ!」と、なんとも憎たらしい言葉を返してきたけど、――でもソレが、彼なりの照れ隠しだと、私は知っている。
杉山に対し、「愛おしい」と、思った。コイツなら、良哉への想いを断ち切ってくれる、白馬に乗った王子様になってくれると感じた。
――だからね。
私は杉山の事、良哉の前で、“杏子の彼氏”だって、紹介したんだ。
後書き
前回から、結構日が経ってて忘れてる方が居てもおかしくない作品ですg((約半年だぞコノヤロウっっ!!
恋愛小説に持っていきたいのに、何故何時もこう、グダグダになるのでしょうかねぇ?(^_^;)((アナタに文才がないからでしょ?
まっ……まぁ…
恋って、想ったり想われたりと、両想いになるのが奇跡な話だって聞いた事がありまして((何処からの情報!?
杏子と良哉は想い合ってますが、擦違いの、両片思い状態です
実は、、
今回の話での終わり方で、此の二人の行方が分からなくなりまして((お前が書いてる話だろ?!
最初は、二人をくっ付けてハッピーエンドになる予定だったんですが、今回の杉山隼人という男について書くうちに……此の少年には、幸せになってほしいなぁ、と思いまして
((まぁ、キャラに感情移入する事はあるけど、自作のキャラにそうなる日がくるとはねぇ(苦笑)
うーん……
如何しよう…
此の侭じゃ、バットエンドフラグが立ちそうな……いやいや(ーー;)
私は、王道を貫くんだ!
アレ?
でも王道なら、杉山とくっ付く方が王道なんじゃね?
だって、よく少女漫画の物語進行に多いのが、片想いしてる男に振り向いてもらえない主人公がある日、ひょんな事から二面性の顔を持つ男と関わる様になり、距離が近付くにつれて、彼の良い処が見えてきて、そんな二重人格な彼にドキドキした主人公の前で、突然、片想いの彼からの告白!
さてはて、主人公の返事h((って、何の次回予告!?てか、其れなら、良哉とくっ付くのも王道の一つだぞ!
………うーん…(~_~;)
初出【2014年3月10日】一部削除