少女は、愛する事より愛される事を選んだ。【前編】
何時までも、返事を待ってられる程、私は大人じゃない――。
「ねぇ、良哉。私、良哉の事愛してるんだけど」
「……あのさぁ杏子。そーゆうのって、ホントに好きな奴が出来た時に言うべきものだろ」
「だっ、だから伝えてんでしょッ!?」
「あー…、はいはい。御前は俺の事好きだもんなぁ。こんなブラコンの妹が居て、お兄ちゃん嬉しいっ♥」
「良哉はお兄ちゃんじゃないでしょっ!?」
「………なぁに言ってんだ。血は繋がってなかろうが、ガキの頃から知ってるんなら“お兄ちゃん”も同然だろぉーが」
――何時もコレだ
愛の言葉を吐いても、何時もはぐらかされる。本人は気付いて無いようだが、愛の言葉を伝える度、良哉は満更でもない反応だ。――まだ、其れだけなら好い。
其れにオプションで、照れた反応を示されれば、諦めの感情が厭でも期待へと切り替わり、また告白紛いな行動を起こしては軽く話を流され、まるで先程の告白が無かったかの様な態度を取られて、自分はショックを受けるという悪循環。
――もう無理
私は、我慢の限界だった
『良哉を好きで居るの、止める』
勢いとは恐いものだ、と改めて思う。出任せで吐き出された言葉は、なんとも自分の首を絞める内容だった。
「良……」
「だったら止めれば好いだろ。御勝手に」
「!ちょっ…何よ、その言い方!?」
「勝手に『好きだ』なんだほざいて、今度は『止める』なんて言って、…何?期待してんの?俺が御前にチューの一つでもすると思った?……ドラマの観過ぎ。大体なぁ、現実、早々に物事が上手く進むとは限らねぇんだよ、お嬢ちゃん」
「………じゃぁ……良哉が、私を好きになる可能性は……」
今ん処はゼロだな、とハッキリとした口調でそう告げる男の顔が歪んで見え、杏子は自分の目を手の甲で擦る。
杏子の中で、何かが音を立てて壊れた。
*
「……名木野?」
声を掛けられ、杏子は振り返る。瞳に映るは、クラスメイトの男子。名前は確か――と思い出そうとする杏子を察したのか、「杉山!一年の頃から一緒だろぉーが!」と突っ込んできた少年に、あー…と声を洩らす。
「……ハァ………まぁ…、好いケドさぁ…」
其れより、と先程までのダラッとした雰囲気は何処へやら。突然真剣な顔になって此方を見詰める杉山に、杏子はビクッと肩を揺らす。
「……何よ?」
「あー…そのさっ、なんかあった?」
「…………はぃ?」
「此処最近、元気ねぇじゃん」
そう言われ、杏子は如何返せば好いのか困った。事実、杉山の言う通り、杏子は落ち込んでいた。本人は、バレない様に精一杯の何時も通りの自分を演じていたつもりだったが、返って逆効果だったらしい。
天気は快晴で、制服からはみ出た肌に生温い風が当たる。現在屋上には、杏子と杉山の二人以外誰も居ない。その事実に気が付いた少女は腰を上げ立ち上ると、杉山の後方にある一カ所の出入り口の扉へと向かった。
「…っ!………離して!!」
扉の方へ行くには、嫌でも杉山の横を通り抜けなければならない。不自然じゃない足取りで、徐々に距離を縮めていき、少年と擦違う。よしっ!と安心したのも束の間、腕を凄い力で掴まれ、身動きが取れなくなった。
「………質問に答えろ。なんか、あったのかよ?」
「なっ、んでそんな事っ、アンタに答えなきゃならないのよっ!」
「お前が泣きそうな面しってからだろ!」
「そんなのほっといてよっ!!アンタに関係ないじゃんっ!!」
「あるよッ!!」
「何処がっ?!」
「好きだからっ、誰かの為にそんな顔する女、見たくねぇんだよっ!!」
杏子は驚き、思わず目を見開く。ゆっくりとした動作で後ろへと振り返り杉山を見ると、彼は、予想以上に顔を真赤に染めていた。
「………杉山…」
――私は、良哉の事が好きだ。出来る事なら、将来を誓い合える仲になりたかったけど、アイツにとって私は、対象外だった。今も、……此れからも…多分、良くて仲の好い兄妹止まり
――だったら…
「…………好いよ」
「……え…?」
「アンタの彼女、…なっても好いよ」
「!……マジで?!」
休み時間。生徒、職員が其々と時間を過ごす中、人知れず、一組のカップルが誕生した。
【少女は、愛する事より愛される事を選んだ。】
自分を選んでくれる人と一緒に居た方が、幸せじゃんか
後書き
ずっと前に書いたっきり、放置していた産物です。。
リハビリで続きを製作中ですが……グダグダ感が強いです(泣)
天悪も続き書きたいし……何で、頭ん中ではストーリー出来上がってんのに、ソレを形に出来ないんだろ…??
まぁそんなわけで、良哉×杏子のもどかしい恋シリーズ第五弾、中編をお送りします!
初出【2013年7月25日】一部削除