その恋にお別れを。
人魚姫は、王子様に恋をしました。
そして、王子様と同じ人間になる為、美しい声と引き換えに、――自由に動き回れる脚を手に入れました。
「私…、此の話嫌い…っ」
「何だよ突然?藪から棒に……」
「だって…」
人魚姫は最後、王子様と幸せになれないのだから。と、言い掛けた言葉を杏子は呑込んだ。
良哉は突然黙り込んだ少女を不思議に思いながらも、中断した勉強を再開させる。室内は、時計の秒針の音とペンを走らせる音だけが酷く響く。息が詰る其の静かさに、良哉は握っていたペンをテーブルの上に置くと、向かいに座る杏子をキッと睨んだ。
「さっきから何コッチ見てんだよ!?集中出来ねぇんだけど!」
「私ね、シンデレラ好きなの!」
「あー…そう。で?何で、コッチずっと見て黙ってんの?何か用があんなら話掛けろよ、気味悪ぃだろ」
「だってさ、身分違いの二人が最後、結ばれるんだよ」
「……あれ?俺の言い分無視?」
「…………でも…、人魚姫は、最後、泡になって消えてしまう……」
「………何が言いてぇんだよ」
「何で命を張ってまで、王子に恋をしたんだろうって、……ふと、思って」
「……えっと、詰り…。ラストシーンの、アレか?人魚に戻れる代償に、王子の命を絶たせるってヤツ」
「………ウン……」
珍しく考え込んでると思ったら、何くだらない事で悩んでんだか――と出掛った言葉を喉元で留め、杏子の頭に手を乗せると、無雑作に撫で回した。
「ちょっ…!?何すっ…!」
「其れだけ、好きだったんだろ」
「!え…?」
「命を掛けてまでの、価値があったんだろぉよ。――人魚にとって、王子という奴が」
「…………………」
杏子は、「ウンそうよね」と、何時も通りの声音で同調すると、さっきまでの不安気な表情は何処へやら、真剣な顔付になり、男を見据える。
「なっ…何だよホント!?……俺が何かしたか?」
「私、良哉の妹じゃないよ」
「……は?当たり前だろ?こんなに似てない兄妹なんていねぇんだから」
「!そっ…、そうじゃなくてッ!私は、人魚姫の様な終わり、迎えたくない!シンデレラの様な最後を飾りたいのっ」
「………何なんだよさっきから…。回りくどい言い方止めてハッキリ言ったら如何なんだ!」
「好きなのッ!愛してるの!好い加減彼女にしてよッ!!」
はあっ、はあっ、と息を荒げ、今にも零れ落ちそうな涙を目の下に浮かべ、杏子は男から顔を背ける。その肩は震えていた。
「………な…、何言ってんだよ。兄妹は法律で……」
「誤魔化さないでッ!其れならさっき、良哉は“私達は兄妹じゃない”って言ったわ!」
「…………ハァ……勘弁してくれよ…」
其の、心にも無い言葉を聞いた瞬間、杏子の瞳からとうとう涙が零れ落ちた。ソレを見て、良哉はギョッとする。
男は狼狽えながらも、手を伸ばし、少女の頬に触れようとした。其処に触れる寸前、伸ばしていた手は、少女のソレによって払い除けられる。
「………杏…」
「もう…、止める……」
「……………え?」
「良哉を好きで居るの、止める」
顔を俯かせ、そう吐かれた杏子の言葉は、室内に静かに響き渡った。
【その恋にお別れを。】
人魚姫は、王子様に恋をしました。
王子様と対等な関係になるのを夢見て、王子様に激しい位のアプローチを何度となくしてきましたが、王子様は全く此方に見向きもしませんでした。そんな彼の態度に人魚姫の心は傷付いていき、とうとう彼女は、王子様を好きでいる事を諦めました。
後書き
久々に小説を書きましたが。。ウーン(-_-;)((グダグダだったね
今回は、急展開&何時もよりシリアスな内容です
…うん
そして何より、話に出てきた【人魚姫】や【シンデレラ】の作品を上手く活かせれなかったのが残念です…(>_<)
初出【2013年1月28日】