コスモス
―――此の恋に終着点はあるのだろうか?
「ねぇ良哉。コスモスの花言葉って、知ってる?」
「……はぁ?」
「はぁ?じゃなくて、花言葉知ってるかって訊いてんの!」
「……や…何で行き成り、そんな事聞くわけ?」
「質問を質問で返さないでよ!!」
とあるマンションの一室には、一人の青年と、一人の少女がテーブルを挟んで向かい合う様に座っている。
青年は読んでいた本から注意を外し顔を上げると、ぎゃあぎゃあとヒステリーを上げる杏子へと視線を向け、ハァ…と溜息を洩らした。
「ってかさぁ……男に花の事訊くって、どうよ?」
「今時、雑学話の一つでも持ってないとモテないよ」
「………だとして、花の雑学持ってた処で大して自慢の一つにもなりゃしねぇよ」
まぁ、確かにそうね…と納得する少女を呆れ気味に見遣り、何でそんな事訊くわけ?と問うと、杏子は顔を背け、答えない。唇をへの字の形にし、頬を少し膨らませ、不機嫌ですといった顔で俯き気味に、此方を睨み付ける少女と目が合う。
「……何、怒ってるわけ?」
「怒ってないもん」
――おいおいマジで、何で拗ねてんだよコイツ
杏子が嘘を吐いてるのは明白だった。口調がきつくなっており、声のトーンも一オクターブ――いや…、二オクターブは下がっていた。彼女を不機嫌にした切っ掛けがあるとすれば、“花言葉”を答えられなかった自分への怒り。
コスモスの花言葉?知るワケが無い。ってか、何でコスモス?普通、薔薇とかだろ!――と心の中で突っ込むと、心境を態度や表情に噫にも出さず、取敢えず、彼女の機嫌を直す事を優先する。何で不機嫌なのかは其の後でも問質せば好い。
「杏子ぉ」普段出さない、絶対出したくない程の甘ったるい猫撫で声の話し方で、少女の名を呼ぶ。「甘い御茶菓子があんだけど、食べるかぁ?」
「……キモッ」
「あぁん?!やんのかクソガキ?」
「何をよ?ってゆぅか、私、もう帰るから」
「はぁ?何で?」
「……何々?私が居なくなると寂しいの?」
「あぁ、寂しい」
「…………………」杏子の顔が、面白い位に紅く染まっていく。まるで、インクを少しずつ垂らして、真っ白な紙をその色に染めていくみたいに。
一方の良哉はといえば、口をついて出た自分の言葉に驚き、目を見開く。
「……や…、あの…、その……」
「…………そっか…。私達、血は繋がってないとはいえ、兄妹みたいに育ったもんね…?」
「あ……あぁ…」
――た…助かったぁ
少女が助け舟を出してくれなかったら、此の後どうなってたかなんて分らない。もしかしたら、気まずい関係になって、其の儘疎遠――なんて事も、あったかもしれない。
男女の幼馴染で、御近所さん。しかも家は隣同士という、何とも恋愛シュミレーションゲームみたいな関係は、アンバランスで、何時壊れてしまうのかという不安が、毎日の様に付き纏っている。
壊れてしまったら最後――もう、元の関係には戻れない。だから、其の先の関係を求めてしまったとしても、一歩も踏み出す事が出来ない。
良哉は恐かった。幼馴染という、微温湯の様な関係が壊れてしまう事が。
「……あー…、そういや、思い出した」
「……は?」
「コスモスの、花言葉」
「………」杏子はゴクッと、喉を鳴らし、ジッと良哉を見据えた。
「……確か、『少女の純真』じゃ、無かったっけ?」
「へ?」杏子は目をパチクリとさせ、間抜けな声を出した。
「へ?…じゃ、ねぇーだろ!御前、人に聞いといて、まさか答え知らねぇのかよ?」
「あ……あっそぉね。うん、合ってる合ってる。いやぁ凄いわ良哉君。私、ソンケーしちゃう」
「御前、全然そう思ってないだろ!…ってか、何でまた、不機嫌になるワケ?」
【コスモス】
真心――『貴方に、好意を寄せています』
―――此の恋の終着点は何処?
後書き
何と無く、良哉×杏子の、もどかしい恋シリーズ第四弾!!……です
コスモスの花言葉、インターネット上で調べに調べて書いたのですが……余り、コスモスを活かせてないのがorzガックリ
調べて分ったのは、コスモスは、恋に纏わる事や、乙女や少女の、女性の気持ちを表した花言葉が数多いって事ですね(#^.^#)
初出【2012年9月18日】一部削除