表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
自由な速さで。
95/369

95話

「ですね。次々と変わる調や拍子やテンポ、アンサンブルとソロの調和。完璧に完成された一作と言っていいでしょう。ゆえに、リードするときのピアノの難易度はハネ上がります」


 以上。メンデルスゾーンのピアノ三重奏、通称『メントリ』の難しいところ。かなり簡素化したが、本当ならもっとある。トレモロやオクターブ。その他。


 いきなりメンデルスゾーンをやろうというベルに、若干の疑いの眼差しを両者は向ける。


 が、肩身狭そうにベルも反論する。


「……弾けるもん……」


 もちろん、責め立てるつもりではない。それくらいの気概があるということ。大事なことだ。そうだ、上を目指すことは大事だ。うん。ひとりごちたフォーヴは、改めて依頼する。


「信じ難いが、頼んだよ、ベル」


「……信じてない……」


 明らかにベルは不満そうだが、それは演奏で明らかにすればいいこと。ブランシュは空気を変える。


「そんなことないです。とりあえず行きましょう。まもなく食堂も閉まりますし」


 一応、学校自体は休日ではあるので、働いている人も少ない。そのため食堂は朝昼晩以外は開いていない。話をするにもなにをするにも、移動が義務付けられる。


 ホールへの道の途中も、ベルは俯きながら小声で呟く。


「うー……でも、たしかに学校のピアノだと、なんかうまくいかないんだよねぇ。家のピアノならうまくいくのに……」


 環境が変わると実力が出ない人はいる。特に、ピアノは持ち歩けないこともあり、普段と違うもので勝負しなければいけない。弦の張り具合も、温度によって変わってしまう。鍵盤の重さ、跳ね返り。よほどいい調律を施されていないと、感覚が変わってしまって逆効果ですらある。


「仕方ないですよ。ピアノのメーカーにもそれぞれ特徴があったりしますから。プロのピアニストだと、同じメーカーじゃないととか、自分がいつも弾いてるピアノじゃないと、という人もいますし」


 ピアノというものは非常に曖昧だ。『正しい』ものは何一つない、と述べている偉大なピアニストもいるほど。音楽用語も時代と共に移ろってきた。例えばアレグロも、『速い』だけではなく『楽しい』という意味を持っていたし、その後『より速く』という風に変化している。その作曲家当時の記号とも変わってきている。


「そういうのともなんか違うんだよねぇ」


 ピアノを弾く感覚も人それぞれ。指を伸ばす人、曲げる人。イスの高さにこだわる人、立って弾く人。弾く時は必ず裸足という主義の人もいる。ベルの感覚が学校のスタインウェイと合わないのも、ある意味で仕方ない。


(そういえば、前にヴィズさん達が言ってましたけど、ベルさんもノエルのリサイタルがあるのにいいんでしょうか)


 以前、リサイタルの話が出た時、ベルの名前があった気がする。とすると、なんか普通に手伝ってくれているが、いいのだろうか、という気持ちには若干なる。本人が何も言わない以上、ありがたく受け取るが、少しブランシュはモヤモヤする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ