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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
自由な速さで。
94/369

94話

 数度の説明で、なんとか理解はしたベルだが、どうも完全には信じきっていない。とりあえずそのへんは放置しておくことにする。


「そっかぁ。というか、ブランシュは音楽科じゃないの? 入れるだけの腕はあるって、ヴィズからは聞いてるけど」


 そういう存在がいることは聞いていた。面白そうなことをやっているとも。混ぜてくれればよかったのにとも。そしてその存在が今、目の前にいる。チャンスとばかりに聞いてみる。


 いやいや、と緩くブランシュは否定する。


「私は趣味ですから。みなさんのように、上手くなりたいとか、将来のこととかではなく、ただ楽しく弾きたいだけなので」


(本当に?)


 誰かの声が聞こえる。ブランシュにだけ聞こえる声。


 その答えに若干不満そうなベルではあるが、演奏家なら演奏で語ろう、と提案する。楽しければ、本人がよければそれでいい。


「ふーん、まぁこの後、やってみるとして、最初はウォーミングアップで何からやろっか。ピアノ三重奏。色々あって悩むよね」


 ピアノ三重奏は様々な作曲家が遺しており、人気もある。それぞれに特徴があり、好みも分かれる。


 初めての三人。ということは、まずは簡単なところから。楽しく悩みながらフォーヴがあげる。


「そうだね。まぁハイドンでゆったりと慣らしつつ、いいところで一回『新世界より』に——」


「メンデルスゾーンでいっか。結構好きだし」


 しかし、それを遮るようにベルが決定する。うん、メンデルスゾーン。決まり、と宣言した。


「は?」


「え?」


 フォーヴとブランシュがそれぞれ目を丸くして戸惑う。「メンデルスゾーン? メンデルスゾーン!?」と、二回確認するが、ベルは肯定する。


「え、なに? なんか変なこと言った?」


 再度、一旦落ち着いたフォーヴが確認する。


「メンデルスゾーンて、『第一番 ニ短調 作品四九』? 本当に?」


 今にも掴みかかりそうな雰囲気である。口には出さないが、ブランシュも同様だ。


「う、うん。変、かな?」


 そんなに詰め寄られるとは思っていなかったベルは、たじろいで少しイスごと後退する。


 確認が取れたところで、フォーヴとブランシュは顔を見合わせた。


「いや、だって、あれは……」


「まさか、本当に……?」


 この状況が面白くないのはニコル。いつものこと。最近増えてきた気もする。


「どういうこと? 相変わらず私を置いていくねぇ」


 慣れたもので、阿吽の呼吸でブランシュが解説に入る。まだ信じてはいない。


「メンデルスゾーンの『ピアノ三重奏 第一番 ニ短調 作品四九』ですが、はっきり言います。音楽科とはいえ、リセに通う生徒が弾ける難易度では到底ありません」


 うん、とフォーヴが力強く同調する。リセとは高校のこと。


「だね、ゆっくりならともかく、特に第三と第四楽章をテンポを守って弾きこなせるなんて、国際コンクールレベルだ。もちろん、ヴァイオリンとチェロも難しい。が、ピアノはその比じゃない。そしてこの曲で一番のキモになる部分それが——」


 チラッとブランシュを見ると、彼女が頷く。


「「バランス」」


 声が合わさる。それほどまでに周知の事実。

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