91話
翌日朝。
「……あれ? なんでいるの?」
〈ソノラ〉の扉を開けたギャスパーが、目を丸くした。昨日のお願いをした手前、なんとなくお店が気になって早朝来てしまっていた。開いていないならそれでよかったのだが、普通にやっている。
いつも通りに花の水揚げをしながら、朝ということもあり気怠そうなベアトリスが迎える。
「……ここはウチなもんで。いたら変? ていうか何か?」
欠伸をしながら、背中を向けたまま返す。
少し焦りながら、ギャスパーは昨日のことを思い返した。
「気になって来てみたら、じゃなくて。昨日頼んだでしょ、ほら、ピアノ。その代役。『新世界より』をピアノでって」
あぁそれか、と変わらずベアトリスはハサミで花の茎を斜めに切る。
「その件なんだが、要求してきたのは『新世界より、をピアノで弾けて』『できれば女性で』『モンフェルナ学園に顔が利いて』『さらに実力があるといい』だったな」
今、学園にはピアノを弾ける人物がいない。ということで、ニコルから連絡を受けていたギャスパーが頼んだことを、箇条書きで思い出した。
うんうん、と頷き、ギャスパーは結論に持って行く。
「そうだよ、だからキミに依頼したのに。貸しイチで。だってキミは——」
「条件を満たせば誰でもいい、はずだ」
その言葉を、パキンと小気味いい音をたてながらベアトリスが遮る。結果さえよければいいはず、と。
「そう、だけど……誰かいるの?」
伺うようにギャスパーが問う。そんな人物、そうそういるわけがない。
立ち上がりながらベアトリスは壁にかかった時計を確認した。
「まぁ」
そして、伸びをして体をほぐす。ずっと前傾姿勢だったから首が疲れた。
「今頃着いてるだろ」
そう伝え、もう一度欠伸をした。




