表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
自由な速さで。
81/369

81話

 アクアバルーンの中では、二種類の菊とかすみ草、シダが咲き誇る。白いスプレーマムの花言葉は『清らかな愛』、そしてピンクのポンポンマムの花言葉は『甘い夢』。愛を抱いて、醒めない夢を。


 男性は深く息を吸い、そしてゆったりと息を吐く。花の声が、自身の身に染み込むように。込められた意味は、しっかりと理解した。さすがあの男の娘。いや、それは関係なく、彼女の力か。


「……やっぱりキミに頼んでよかった。キミのお父さんに頼むと、適当に切り花渡されて終わりだろうからね。M.O.Fは難しい性格が多い」


 仮定の話を想像し、男性は身震いする。なんてヤツだ。職務怠慢にもほどがある。次に会った時は、今日のことをたくさん自慢してやろう。


 M.O.Fは難しい性格。そこに引っ掛かりを覚えたベアトリスは、頭を抱えた。なにを言ってるんだこの人は。


「それはあなたもでしょう。調香師ギャスパー・タルマ。来るなら電話くらいしてくださいって」


 次のお客さんが来るギリギリだというのに。追加で働かせてやがって、と迷惑にしか思っていない。


 ギャスパー、と呼ばれた男は悪びれる様子もなく戯ける。


「サプライズが好きだからね。驚いた?」


「早く帰ってほしい」


 冷たくベアトリスは事実を言い放つ。見ればわかるだろう、と内心穏やかに激怒。昔から、彼の奇行には翻弄されっぱなしだ。 どうせこの人の孫とかもこんな感じなのだろう。


「まぁまぁ、ひとつ聞きたいんだけど」


 落ち着けるようにジェスチャーし、ギャスパーは宥める。一度火がついたらややこしい子なのは知っている。


「別料金で」


 全部ギャスパーの思惑通りにいくのが面白くないと感じて、ベアトリスは出来うる限りの抵抗をする。なにかするたびに料金が発生するシステムもありか、と店の懐も潤う算段も視野に入れた。


 しかし、そこは無視してギャスパーは低い声で、真剣そうに話す。


「……ドヴォルザーク『新世界より』。この曲に必要なものはなんだと思う?」


「知らん」


 あっさりとベアトリスに受け流される。付き合いきれん、と突き放す。


「そう言わずに」


 とりあえずすがりついて、もう一回会話のラリーをギャスパーは試みる。


「楽器。優秀な指揮者。反響のいいホール。マナーのいい聴衆」


 箇条書きのようにベアトリスは羅列するが、ギャスパーは渋い顔をする。


「そういうのじゃなくて。これを抜いたら、最後のピースが完成しないなっていうもの」


 そう言われ、ベアトリスは熟考する。


 ドヴォルザーク。名曲だらけのチェコの作曲家。個人的に『英雄の歌』が好き。彼を構成する要素はいくつもある。考える時は、花を触っている方が思いつく。手近にあるシンフォリカルポスを手に取り、アレンジメントを考える。


「まぁひとつ挙げるとすれば」


 うーん、と唸り、全体の構成、色合いをイメージする。


「『鉄道音』、だな」


 そしてハサミを取り出し、シンフォリカルポスの茎をパキッと切り落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ