80話
と言い、ベアトリスは膨らませる前、ボディの部分が直径二〇センチほどの、大きな風船を指差した。
「……風船? これ、風船なの?」
男性は戸惑う。風船というチョイスもそうだが、なにより、風船というには少し形がおかしい。まず、口となる部分が異様に長い。そして太い。さらに、その口の部分にもうひとつ、横向きで小さな口が付随している。
「まぁ、あまり見る機会もないだろう。アクアバルーンは知ってても、膨らませる前がこのような形であることを、知らない者も多い。こういうものもあるということ」
軽く説明し、ベアトリスはまず、花をそれぞれ紙で包み始めた。
「こうすることで、円滑に作業できる。そして、大きい方の口の穴から、紙に包んだ花を入れ、紙だけ抜き取る。全部入れ終えたら、ある程度整え、広い方の口に、このヒートシーラーを使う」
そう言って、ベアトリスはホチキスのような器具を使い、広い穴の口を挟むと、熱の力で口が密閉される。これで花が落ちてくることはなくなる。
続いて取り出したのは、空気入れ。小さい方の口の穴と接続する。
「ポンプで空気を送り込む。少し大きめに膨らませてから、少しずつ小さくして、適正なサイズにする。この方が形が整いやすい」
力仕事は好きじゃないんだがな、とベアトリスは少し苛立つ。アクアバルーン作成で一番避けたい作業がこれ。弟がいれば弟にやらせる。いないので仕方なく。
「本当に風船みたいになってきた」
少しずつ大きくなっていくバルーンを、目を輝かせながら男性は見つめる。なにか自分の知らない世界が広がっていくようで、単純に楽しい。まだなにか隠している気がする。ならなお楽しい。
そこでベアトリスは追加で詳細を話す。
「みたいじゃない。風船なんだ。中に入れてしまうと水も与えることができないから、プリザーブドかアーティフィシャルでやるのをオススメする。それと」
忘れないように、小さい口にもベアトリスはシールする。これで密封。
「そして最後に、リボンで茎を固定する」
通常の風船の口を閉めるように、ボディ部分と口の境目の部分にリボンをキツく巻いて窄めた。見た目と固定の実用性。両方を兼ね備えている。さらに、ベアトリスは小さな紙コップのような、縞模様の円柱の筒を取り出した。
「茎の部分に……これでいい」
その筒を、まるで花の鉢のように取り付けた。もちろんただくっつけただけ。下に伸びていた風船の口は、折り曲げて無理やり筒にねじ込む。最後の仕上げとして、長いピンク色のリボンを取り出した。
「そして、横ではなく、縦方向にもリボンをつける」
筒とバルーンを固定するように。離れないように。バルーンの頂点を結び目に、ベアトリスはリボンを巻いて、優しく縛った。
「これは——」
完成されたアクアバルーンの花を見、男性は言葉を失った。
その先の言葉を、作り上げたベアトリスが紡ぐ。
「風船じゃない、『気球』をイメージした。より高く、近くいれるように」




