79話
「てか、シャルルくんは? 今はひとり?」
気づいたら自前のショコラを取り出して、男性はエスプレッソをより楽しんでいる。蜂蜜酒に漬けたオランジェット。優雅なティータイムを花屋で。
「なんでもいいだろ。で、なにしに来たわけで?」
「ここは花屋でしょ? 花を買いに来た。愛する妻のために。菊をベースで、冬に強そうな花を。もうこっちにはいないからね」
ベアトリスの質問に、ようやく答える気になった男性は、万聖節に合致したアレンジメントをオーダーする。寒さに強い菊。そこから考えられるアレンジメントを。
重い腰を上げ、ベアトリスは一応の説明をする。
「わかってると思うけども、墓地に置くなら鉢植え。でもここはアレンジメント専門。外に置くのは向いてないが」
フラワーアレンジメント、切り花は気温の変わりやすい屋外に置くことは、あまり勧められることではない。直射日光に当たりすぎても、花が痛む原因になること、花瓶の水が温まるとバクテリアが発生しやすくなってしまうことなど、様々な要因がある。
〈ソノラ〉は、アレンジメントしかやっていないため、墓に飾る鉢植えはやっていない。ゆえに万聖節には向いていないとも言える。
「それでいいよ。ささ、やっちゃってやっちゃって」
元々、墓石用にするつもりはなかったため、男性は了承した。
結局こうなるか、と、意を決してベアトリスは想像する。菊をベースに、墓、空、永遠。なにがあるだろう。目を瞑り、ピアノを弾くように、指でなにかを形作る。
時間にして数秒。目を開け、あたりの花を見回した。
「まず、用意するものはそうだな、ピンクのポンポンマム、白いスプレーマム、かすみ草、そしてシダ。全部プリザーブドフラワーで」
マムとは菊。丸くこんもりとしたピンク色のものと、枝状に花を咲かせる白いものの二種類を選択。かすみ草はナデシコ科の、小さな花を多数咲かせる草花。『幸福』の花言葉を持つ。シダは花というよりは、維管束の植物。主役というよりかは、名脇役というポジションだ。しかし花言葉を持ち、『誠実』といった意味。全て、長期間保存可能で特殊な加工をした、通称プリザーブドフラワーを使う。
それらをベアトリスはテーブルに乗せた。使う花はこれで全部。
しかし、男性は「ふむ」と、悩まし気に腕を組んだ。
「少ないね。それぞれ数本ずつしかないけど」
たしかに、これだと花瓶に生けたり、もしくはバスケットなどに飾ったりするには少し寂しい。もっと豪華なものになると予想していた男性は、若干不満そうだ。派手派手で、目がチカチカするくらいの。
ここで、そう言われると予想していたベアトリスが、裏からカゴに入った荷物を持ってくる。カゴを机の足元に置き、中身を机の上に広げた。
「今回はこれが主役だ。アクアバルーン」




