77話
心強い味方ができて、ひとまずの安堵を浮かべるブランシュは、ほっと胸を撫で下ろす。チェロの知り合いはいなかったこともあり、参考になる意見をどしどし貰いたい。なにより、一緒に演奏したということはつまり、友達になったということ。
「よし、決まり。休みはいつまで? それまでこっちにいられるよね?」
ニコルの方は相変わらず、ずけずけと勝手に人のスケジュールを組もうとする。物怖じしない性格と度胸。
ふと、ブランシュはたぶん、ニコルに目隠しをして、アフリカあたりの見知らぬ民族に放り込んでも、コミュニケーション力だけで、数日後にはパリに戻ってきてるだろう、と予想した。なんとなく。
「三日までだね。まぁ、夜には家に着きたいから、実質三日の昼くらいまでかね。それまでは演奏もいいけど、観光もよろしく。ギブアンドテイクだ」
期待に胸を膨らませて、フォーヴは申し出る。楽しい旅行になりそうだ。
ここでやっとニコルも気持ちが緩む。少しスケジュールに余裕はあったとはいえ、油断しているとすぐに迎えてしまう。できるだけ準備は進めておきたい。
「オッケー。助かるよ。音楽科じゃないもんで、仲間はひとりでも多い方がいい」
その仲間も、すでにこの時期は三人共に帰省しており、かなり水面下では逼迫していた。少しでも進められるのであれば、これほど助かることはない。
「こっちこそ感謝したいぐらいだよ。ただ、そっちもブリュッセルには来てくれよ。本場のショコラを堪能してもらわなきゃ」
「当然」
フォーヴの誘いに、間髪入れずニコルは同意する。むしろ、ショコラの本場でもあるブリュッセル。一度は行ってみたかった。行く口実と、宿などの手配もこれで完璧だろう。やはりあの時引き止めておいてよかった。自分の直感が少し怖いとすら思えてきた。
ニコルがうまくいっていることに浮かれていると、「そういえば」と、フォーヴが話を膨らませる。
「『新世界より』の香水か。まぁ、お節介かもだけどひとつ」
本来の目的を呼び起こされ、有頂天のニコルが返事をする。もしかして、なにか思いついちゃった? なに?
「なんか問題あるの?」
問われ、少し苦い顔をしたフォーヴが断言した。
「あぁ、はっきりと言う。今のままじゃ、絶対に完成しないね」




