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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
自由な速さで。
68/369

68話

 女性は不思議そうに驚いた。


「姉? そうか……いや、どうせなら一緒にやろうか、と声をかけたんだが、楽器を持っていないようだね。まぁ、普通は持ってこないか。なに、こっちの話」


 少し口惜しそうに、女性は唇を尖らせた。


「一緒に?」


 その発言にブランシュは声を発した。チェロはそのサイズゆえに、イスに座って弾く。しかしそれを持ち合わせているようには見えない。となると、どこかへ移動して演奏しようということか、と判断した。


 しかし、その反応を見越したかのように、女性はケースから太いストラップのようなものを取り出した。それをチェロに装着し、まるでギターのように肩にかける。さすがに横では持てないので、縦に持つが、小さい子供ならすっぽりと隠れてしまいそうなサイズ感だ。


「立って弾けるように、こういうものもあるんだよ。ヨーヨー・マも使っていたね。慣れれば、こっちのほうが私は弾きやすい」


 と、女性は慣れた様子でチェロを弾く準備を完了する。軽く笑みを浮かべ、弾くたくてウズウズとしているようだ。指で弦を弾いたり押さえたりしながら、右手の弓も構える。


 まわりの参拝者達も、何事かと興味深そうに注目しだした。中には携帯を取り出して撮影しようとする者も。大道芸人かなにかと間違えているようだ。


「いや、あの、ここで? たぶんですけど、ここは……」


 若干の気まずさに耐えきれなくなったブランシュは、できるだけ他人のフリをしながら、女性に話しかける。日陰者として生きてきた身。注目されたくはない。橋の下で弾く時も、あまり人がいないことを確認して弾くほどだ。


「まぁ、禁止かもね。でもどうなんだろ? ほら、石像にキスするのも、ある程度は放置されていたし。なにかあったら、走って逃げれば問題ない」


 と、めちゃくちゃな理論を女性は振りかざす。注目があればあるほど楽しい。適度な緊張の中で弾くチェロ。厳かな場所。耳の肥えたパリの聴衆。全てが最高だ。


 それを冷ややかな目で見ているニコルは、珍しく真っ当な意見を物申す。


「ふーん、なんでここで弾くの? どっかの橋の下とかでいいんじゃない?」


「尊敬するプーランクに、自分の音を聴いてほしいだけだよ。私がパリに来て、やりたいこと二〇ヶ条のうちのひとつさ」


 あと一九個、この調子だとあまりロクでもないようなことの気がするが、女性は『やらずに後悔するより、やって後悔したい』と考えている。巻き込まれそうになったブランシュもいい迷惑だ。


 とはいえ、ニコルも面白そうなことに全ベットする人物。


「ま、いいんじゃない? 私らはほら、無関係だし。せっかくだし聴かせてよ、チェロの音ってやつ」

ブックマーク、星などいつもありがとうございます!またぜひ読みに来ていただけると幸いです!

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