65話
「いやー、混んでるね。時間、間違えたかも。珍しく晴れてるし、目がチカチカする」
二〇区にある、ペール・ラシェーズ墓地。巨大な石造りの門を抜けると、小鳥の囀る、緑豊かな森林公園のような、爽やかな風が流れる。四三ヘクタールという広大な土地に、数えきれないほどの墓。墓の造りなどに縛りはないため、人々は思い思いの芸術品のような彫刻で墓石を設置する。
九七区画あるとされるこの墓地には七万を超える墓があり、北のモンマルトル、南のモンパルナスと三大市営墓地とされているが、東のペール・ラシェーズはそれらの倍以上の面積を持つ。
シンプルに名前を刻まれただけの石碑もあれば、横たわった人間の形をしたもの。様々だが、劇作家オスカー・ワイルドの墓には天使の石像があるのだが、ここにキスマークをするのがファンの慣例となっていた。しかし口紅の油のせいで石像が痛み、損傷が進んだことでガラスの囲いが設置されたりという過去がある。
そして、それらの墓には数多くの花が供えられ、その多くはカラフルな菊の花。寒さに強いのが菊、という、なんとも合理的な理由で採用されている。
「お花屋さん、軒並み菊の花だらけでしたね。スーパーマーケットなどでは、特設会場まであるって聞いたことありますけど。あ、すみません」
「墓地が観光名所、ってのがなんかいいね。死んだ人だってさ、静かに眠りたい人ばっかじゃないでしょ。お祭り大好きな人だっているし。っと、ごめんよ」
ブランシュもニコルも、人と軽く接触しながら進む。なにせこの一日で一〇万人以上が訪れる。広大な土地であるが、それだけの人数が集まれば、なかなかに歩くだけで大変だ。密度は高いが、緑の木々のおかげで爽やかな秋晴れの散歩を楽しめる。
「一年に一度くらいはありかもしれませんね。にしても……広いです」
ブランシュのお目当ては、やはりエネスコと、その近くにあるらしいビゼー。クラシックに関する偉人のお墓を一度、訪問してみたかった。他にもたくさんいるが、広すぎてまわりきれないため、それはまた後日。小さめの菊の鉢植えを、墓地近くの花屋で二つ買い、準備万端。あとは辿り着くだけ。ショパンは特に混んでいると予想して、こちらも後日。
「それにしても……お墓とは思えないほどの活気ですね。みなさん、写真撮影もしてますし」
基本的にフランスにおいて、墓地というのは成仏していないお化けが出る場所、というよりも『死者の魂と語り合い、触れ合う』場所というほうが感覚として近いものがある。そのため、墓石にキスマークはもちろん、落書きなんかもかなり多い。きっちりと区画分けされており、有名人だから専用の、ということもない。かなり乱雑に配置されており、詩人アポリネールの墓なども、一見すると一般人と見分けがつかないほど。
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