58話
一一月一日の万聖節には、フランス中の学校は休みとなり、それはパリのモンフェルナ学園も例に漏れない。カトリックの祭日である万聖節では、全ての聖人と殉教者に対して祈りを捧げる日だ。クリスチャンでなければ全く関係ないが、巡り巡ってフランス全土で休日となる。
宗教以外にも、冬の訪れを告げる日とも言われ、気温も下がり、日も短くなる基準の日でもある。フランスの冬は天気が悪いことが多いため、万聖節を境に観光施設も冬季休業に入るところもあるのだ。
そして翌日二日は、『死者の日』となっており、近親者のお墓参りをする。しかし休日ではないため、みな前日の万聖節に合わせてお墓参りをする。そしてなぜか、お休み大好きなこの国は、一〇月下旬から一一月上旬まで学校は休みとなる。
とはいえ、全ての生徒が帰るというわけではないため、寮は開放されているし、のんびりと過ごして勉学に励む生徒ももちろんいる。それでも大半は故郷や実家に帰る。
「さて、学校は休みですし、溜まったお洗濯とかもやっちゃいましょうか」
カンヌ湾を望む小さな市であるグラース出身、ブランシュ・カローにとってもそれは平等なのだが、まだ出てきてさほど経っていないこともあり、本来は帰るつもりだったが、今回は帰郷は見送った。それよりも勉強しないといけないことが多く、両親もそれは了承した。そして、それ以外にも色々と頭を悩ませることがあり、ゆっくりと考えたいということもある。
洗濯カゴを持ち上げたブランシュは、寮の各階にあるランドリールームへ。行く前に、部屋のベッドで寝るニコルを不満気に見つめる。二段ベッドの下。
「……当番制にしたはずなんですけど……」
同居する妹、ニコル・カロー。実際には本当の妹ではないのだが、わけあってそういう関係になり、偽造された書類を作成し、この学園の寮で暮らしている。そのニコルと家事は分担した。今日の洗濯当番はニコル。髪も掛け布団も乱れている。
「うーん……うー……」
なんの夢を見ているのかはわからないが、幸せそうだ。起こさないであげたい。だが、洗濯しないと溜まる一方。しかたない。
「貸しイチ、ですよ」
小さく、自分自身に言い聞かせるように呟いたブランシュは、洗濯カゴを抱えて部屋の外へ。階の隅にあるランドリールームには当然誰もいない。取り合いになることもよくあるのだが、静かだ。洗濯物・洗剤・柔軟剤を洗濯機へ投入。木製のベンチに腰掛け、天井を見る。聞こえてくるのはゴウンゴウンという、洗濯機の音だけ。
「ほとんど誰もいない寮……少し寂しいですけど、たまにはありですね」
全くの無音でないことが、逆に集中できる。これまでのこと。今。これからのこと。ポケットからお菓子を取り出す。袋に入ったオランジェット。先日、ヴィズがもらったものを分けてもらった。普通に部屋に置いておくと、ニコルに発見される恐れがあるので持ち歩いている。今が食べる時だ。
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