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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歩くような速さで。
54/369

54話

 この数日間が夢だったような、先ほど玄関のドアを開けた瞬間に夢から覚めて、今が決まり切った現実にいるわけで。なくなったお菓子は元々買ってなかったか、夜中に知らないうちに食べてしまっていて。壁にかかる一〇の小瓶は、インテリアショップでたまたま見かけたセール品で。


 と、玄関のドアがノックされる。彼女ではない。彼女ならまず、開いていると予想してドアを押してそのまま入ろうとするだろう。三秒ほどドアを見つめ、ゆっくりとブランシュは立ち上がった。


「はい、今出ます」


 ここは寮だ。いくらパリとはいえ、泥棒なんてことはないだろう。この安心しきった感覚は、ここを出た後に平和ボケしないか心配だ。重たいドアを開けると、そこにいたのは恰幅の良い女性。寮長さんだった。


「あれ、もう学校は終わり? 今、大丈夫?」


 今は午後の講義中だということは寮長も知っている、この反応は当然だろう。いないだろうな、という予想を先に立てていたため、いたことに驚いた。


 自分の反応がひとつひとつ鈍い気がする。脳が回っていない。そんな気だるさを覚えつつも、ブランシュは笑顔で返した。


「はい、大丈夫です。寮長さん、どうかされましたか?」


「いやねぇ、なんかこの部屋に寮生じゃない子がいるって噂になってて。ブランシュちゃん、もしかしたらなにか脅されてるんじゃないかって守衛さん言ってるのよ」


 日曜日の守衛。実はずっと気になっていた模様。今までに出会った人間は数万人。この道、長い彼には、なにか隠し事をしているとなんとなく、わかるらしい。あの時は押し切られてしまったが、心残りだった。それを数日経ち、寮長に報告してみた。気のせいなら気のせいでそれが一番。


「守衛さんが、ですか?」


「ほら、パリに出てきたばかりの子って狙われやすいじゃない? そそのかされて悪いことに手を染めて、警察に通報しない代わりに家を占拠するとか、わりかし多いのよ。もしなにかあれば……」


 チラリとブランシュを心配そうに見やる寮長。数年とはいえ、各家庭から大事なお子さんを預かっている身としては、お節介と言われてもできることはしてあげたい。


 その優しさに気づき、ブランシュは嬉しさと恥ずかしさで笑みを浮かべた。あぁ、この人は尊敬できる人だと、直感する。 


「……妹なんです、本当に。母親が違うので似てないんですけど、大事な妹なんです。でも、勝手に何日も泊めるのは、申し訳ありませんでした。数日中に出ていきます、二人でアパートを探します」


 会釈し、もう一度笑む。

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

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