48話
イスから立ち上がり、イリナはブランシュを四方八方から観察しつつ、髪や二の腕や足などを触ってみる。普通に触れる。ふむ、幽霊とかそういうのではないみたいだ。
「なにか、最後の真ん中のピースが埋まっていないような、全体はイメージできるのに、大事ななにかが抜け落ちている感じなんです」
唐突に色々弄られ驚いたが、ブランシュは気にせず会話を続ける。が、しまった、ここでじゃれたりして、もっと親睦を深めるべきだったか、と反省した。まだ壁を作ってしまっていたか。
「……じゃ、ピアニスト三人いるんだし、それぞれ合わせてみよっか。第一がヴィズで、第二が私、第三はカルメンでいいでしょ。違いがあれば、なにか見つかるかも」
「いいよー」
「いいわ」
突然のイリナからのアンサンブルの誘い。二人も即承認した。やはり演奏家なら、音楽で親睦を深めるのが一番手っ取り早い。演奏にはその人の中身が詰まっている。
願ってもないことだが、ブランシュは目を丸くした。
「いや! あの、申し訳ないですって! せっかくのお昼休みに、ゆっくり休んでくださいって!」
身振り手振りで申し訳なさをアピールする。ただでさえ音楽科はその名の通り、音楽に関する講義が多い。リフレッシュしてもらいたいのと、自分の都合のために駆り出すのは忍びない。
「いやでもねぇ、キャンドルまで作ってもらって、何もなしなんてねぇ。頼ってくれって、友達っしょ?」
ブランシュの肩を抱き寄せ、イリナはお互いのこめかみをコツン、と優しくぶつけた。
(友達……!いい響きです……!)
自分が思ってたいただけではなかった、とブランシュは安堵と喜び。しかし不安も。
「本当によろしいんですか? 私の個人的なことに巻き込んでしまって……」
「放課後にみんなでスイーツ食べるのと一緒でしょ。昼休みにピアノとヴァイオリンで演奏」
一緒一緒、とイリナがブランシュの肩を強めに叩く。
たしかに、数分でヴァイオリンを取ってホールに行くことはできる。ここはもう、言葉に甘えることにした。たくさん感謝しよう。
「わかりました、ありがとうございます。すぐに取ってきます!」
ランチボックスとカバンを手に、足取り軽く、取りに戻る。実は、ふとなにか思いついた時のため、学内のロッカーに預けていた。三分後にはホールに到着するだろう。
「はいはい、時間もったいないからあたしらも早く行くよー」
と、この流れを予想していたかのように、昼の時間帯のホールはヴィズが借りていたらしい。テーブルを片付けてホールへ向かう。するとすぐにブランシュがやってきた。相当急いでいたのか、肩で息をしている。
中に入り、まずはヴィズがイスに座る。
「ヴィズ、譜面ある? あんま覚えてないんだけど、あったら貸して」
イリナは普段、ブラームスはあまり弾かないが、『雨の歌』は弾いたことがあった。しかしそれもだいぶ昔の話。今のうちに思い出す。譜面を見ればだいたい思い出す。カルメンも同様。
「はい。私は覚えてるから、二人で使って」
ヴィズはカバンから譜面を取り出す。ぶっつけ本番だが二人なら大丈夫だろう。
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