45話
「ないですね。私は他人の紅茶でおかわりは無理です」
「おいおい、お姉ちゃんよ。もっと妹に優しくしてくれよぉ」
肩を抱き寄せてくる妹をうっとうしくも感じるが、姉は悪い気は心の底ではしていない。なんだかんだで、このはちゃめちゃした空気は嫌いじゃない。が、やはり気になることは気になる。
「しかし……なにが欠けているのか、これ以上精油を混ぜると、私の腕ではバランスが崩れる可能性があるので、中々難しいです」
「じゃあ完成でいいんじゃない? 精一杯やったってことで」
自身の首筋に塗布した香油が、穏やかな優しい香りに変化している。ニコルはこの香りに満足している。使う人が満足しているなら、それで解決でしょう。
アマチュアにしてはもちろん、よくやっている方だとは思う。こだわりを持って、意図する香りは作ることができたのだから。ブランシュは決断する。たしかにうだうだ考えていてもしょうがない。
「まだあと四日あります。それまで……少し粘ってみます。それでダメなら、その香りでお願いします」
やるだけやってみよう。ダメで元々なのだから、と、以前の自分だったらこんなに切り替え早くできたのかわからない。ニコルのいいところだけ、少し混じってきたのかもしれない。混ざるのはここまででいいからね、と自分に注意喚起。
「音楽科に編入すれば? ルールを守りさえすれば、ホールは使えるわよ」
と、ヴィズが提案してくる。たしかに使う際に、余計なことを考えずに使えるかもしれない。だが、ブランシュは決めている。
「ありがとうございます。でも私の目指すところは、プロのヴァイオリニストではないので。趣味でやるくらいがちょうどいいです」
そう、パリまで調香師になるために来たのだ。色々と予定とは違っているが、道は繋がっていると信じている。
「ま、四日間あるわけだし、色んな角度から見てみればいいんじゃない? とりあえず私は戻って寝る。下のベッド使うよ」
ニコルは立ち上がってゴミなどを片付ける。ついでに二人のぶんも、食べ終わっているものは一緒に捨てた。
「もう、私の部屋に住むつもりなんですね……」
持ち帰りでなにやら、いつの間にか買っていたらしい紙袋を手に持ち、ニコルはそれをヒラヒラと揺らす。
「サポート役に徹するんで。元々は私の課題なわけで、ブランシュひとりに押し付けてる罪悪感もあるのよ」
「あるようには全く見えないけどね」
冷静にヴィズが一言いれる。まぁ、あたしには関係ないけどと、他人事らしい。
(四日……急がねばなりませんか)
ヒントはどこかにあるはず。ブランシュは窓の先のホールをもう一度見て、頭の中で『雨の歌』を紡ぎ出した。
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