41話
第一楽章が終わる。今、やれるだけのことはやった。第二楽章。一度、右手の甲の香りを嗅ぎリセット。トップを塗布した部分を擦って落とし、ミドルを塗布する。
第二楽章はピアノの詩情豊かな音色から幕を開ける。走馬灯のように過ぎ去る日々。
そこへ入っていくヴァイオリン。悲痛な、ブラームスの心を描いているようにも思える重い音色。
(病床のフェリクスを見舞う手紙をクララに……クララ……?)
ピアノと混じり合うヴァイオリン。が、途端に消える。
ゆっくりと、静かにブランシュは弓とヴァイオリンを下ろした。目を大きく見開き、動かなくなる。わずかに開いた唇から、小さくなにかが溢れる。
その音をかき消すように、ピアノの情緒的な音だけがホールに響く。
「どうしたの?」
唐突に止まった演奏に、ヴィズも手を止め、ブランシュに声をかけ、近づく。弦でも切れたのか。
「どうした? なにかあった?」
傍観していたニコルも急いで近づく。楽器に変化は……ない。だが、本人がなにか口にしている。
「おい、どうしたんだ」
ブランシュの細い肩を両手で掴み、揺らす。声が届いていないかのような、そんな雰囲気だ。
乱暴な扱いに、ヴィズもニコルを止めに入る。
「ちょ、ちょっと」
「クララが……」
ようやくブランシュが反応を示す。
「クララが……消えました……」
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