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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
消えるように。
364/369

364話

 だが。ニコルは過呼吸気味に息を荒くしながら、そこにたどり着いた。


「嘘、でしょ……? だって、あなたはブランシュで——」


「ブランシュ、は『輝き』という意味もあるんですよ。他にも『光』、とか」


 不思議な単語ですよね、と他人事のように。そう、ブランシュというものは他人。ここにはいない。お願いだから、忘れて。


 どう、これを処理しようか。そのことがニコルの頭を支配し始める。爺さんに詰め寄るか。なぜ教えなかった、と。なぜこんなことになった、と。


「……」


 どれも違う。どれもこれも。正しい判断じゃない。正しい判断、なんてあるのか。それも知らない。私は。どう立ち回ったらいい?


 話しすぎた。感謝はしている。私を連れ出してくれてありがとうございます、と。だが、いつかこんな日がくることを。ブランシュもわかっていた。


「……もういいですね? この香水『光』はお婆様からいただいたものなんですよ。ブランシュ、というのは偽名です。当たりですよ。私の名前はエステル。ギャスパー・タルマ氏の——」


 悲しそうな目で。憂いの瞳で。寂しげな眼で。




「孫なんですよ。私が」




 エステル・タルマ。ここのセキュリティが甘いのも同意。あなたのように。私のように。普通に入れてしまうのだから。騙すような真似をしてごめんなさい。でも、お互い様。ですよ。


「……」


 そのままニコルは項垂れる。それで。このあとどうなる? 私はなにをしたらいい? 明朝のコーヒーは? 洗濯と乾燥は? そんなことを。考えながら。


 それと忘れてはならないこと。エステルは今、この瞬間に起きているであろう混乱を予見する。


「……それとブリジットさんには本当に申し訳ないことをした、と思っています。ですが問題はありません」


 本当に。申し訳ありません。言い訳はしない。信じてくれたこと。一緒に会話したこと。忘れることはない。


 顔だけニコルは上げる。もう、あと、なにがある。なんでも。いい。


「……」


「珍しく、あの人がパリに来ているそうなので。お願いしておきました。猫が導いてくれたら、と言っていましたけど」


 壁の先。この方角にある教会。そこできっと。きっと。エステルは願う。

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