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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
消えるように。
363/369

363話

 手首を嗅ぐブランシュ。ほのかに残る香り。演奏中も揺れるたびに濃く香っていた。そして告げる。


「これ、ですね。これ。販売していないんですよ。非売品です」


 だからこれは私だけのもの。他には誰も。私のためだけのものだから。


 今日一番の険しい歪んだ顔をニコルは見せる。


「はぁ? いや、だって実際にそこにあって——」


 と否定しようとしたところで。




 ひとつだけ。なにか見落としていたものが。心に落ちてきた。そんな予感。




「……!」


 ハッとする。冷たいものがポタッと。体の芯から冷やす。一瞬震える。


(…………いや、そんなバカな。いやいや、そんな……こと、ある……?)


 でももしそれが当てはまるなら。今日のここでの会話が全て、一本筋が通る。だが、それでも信じることはできない。だって、この子は嘘なんかつける感じじゃなくて。リアクションは全て心からのもので。


 優しいとことか。騙されやすいとことか。落ち込みやすかったり、立ち直りも案外早いとことか。それらがこの子を形成していて。香水に目がないとことか、クラシックの知識とか。洗濯物の干し方に、コーヒーの味。そういったものがこの子であって。


 もう、ここまで伝えてしまったなら。後戻りはできない。ブランシュの決意。


「……気づきましたか? 最後のヒントにしましょうか。ニコルさんはこれも最初に言っていましたよね。『十本作って、十一本目は孫にあげる』って。ま、あなたが本当にお孫さんなのかは、この際どうでもいいです」


 少しだけ。語調が普段のものになる。だからこそ。心が離れていくように。


 ニコルは頭を抱える。今までのこと。全部。ひっくり返ってしまうような。


「……まさか、いや、だって——」


「私もあの時驚いたんですよ。まさか、隠し子でもいたんじゃないか、って。『私の知らない親族がいるかも』だなんて」


 冷たい、が、どこか寂しさを含んだブランシュの目。気づかないでいて。お願いだから。

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