361話
……なんのこと? 全く身の覚えがないニコル。
「初めて……?」
のことを思い出す。たしか出会ってから、そのまま寮に直行して。その間に話した、こと?
《いや。今日が初めて。名前も知らなかったし。ブランシュ……ファミリーネームは?》
これじゃない。
《しかし、こんな簡単に入れるなんて、モンフェルナ学園もセキュリティ甘いんじゃないの?》
……? なんだろう、心に引っかかる。
「こうも思ったんじゃないですか? 『どうせ偽名だろう』って。私の名前さえ知らされていないというところで、あぁ、そういうことか、と理解しました」
この時、自信が確信に変わった。もしかしたら、とブランシュが予想したことが当たっている。お互いになにもかも正解していたわけで。ただ、少しボタンのかけ違いのようなズレがあって。その結果、徐々に徐々にそのズレが大きくなった。
頭を使うのは苦手なニコル。ショートしそう。
「だから、全然話が見えてこないって——」
「あの時、気づいたんですよ。『この人は私を見張るために私のところへ送り込まれた。でもあの人からほとんど教えられていないんだ』って」
結局は自分も遊ばれているんだろうな、そんなところにブランシュは行き着いた。いや、一緒に遊ぼうと誘われていたのかも。いずれにせよ、きっと思いついた時には、モーツァルトの『魔笛』でも鑑賞していたのかも。ただの戯れ。
その言葉。ニコルには引っかかるところがいくつもある。特に。
「……あの人……?」
自分に、この子と接触するように言ってきた人物。今回のこと。計画している人物。それは、知る限りひとりしかいなくて。でもそれはありえなくて。なぜなら、この子の最初の反応や、憧れる姿。そういったものをこの二ヶ月間見てきたから。だから。ありえない……。




