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357話
「うん、聴いてて。今日はすごくいい感じ、だから」
信頼できるピアノも。自分自身も。今のブリジット・オドレイのピークを持ってこれている。気がする。ただ流れに逆らわず、身を任せる。ショパンを想う心を、ピアノを通して『映し出す』。『弾く』のではなく『映し出す』。
(……大丈夫、程よく緊張して、程よくリラックスできてる。理想的、かな)
自身の繊細な演奏が大きな場所では不利と悟り、次第にステージ恐怖症になった。私の知っているショパンはそれでいい。でも『私というショパン』は。どんな時もどんな場所でもやれることをやるだけ。
上手く、ではなく、永く。将来的にずっとピアノに触れていられる姿を想像。そう、これもアトリエで教わった。学校では教わらない教え。思い浮かぶ。未来の自分。
身体は和らいで。鎮まって。だけど。それでも。
(ブランシュ……あなたはどこで、なにをやっているの……?)
雨が。強くなる。




