353話
すでに聴衆がそれなりに集まってきており、賑わい始めている。各々、好きな場所に座り、談笑しながら時を待つ。他の教会でも同じようにクラシックの演奏が行われているが、その中でもここを選んだ。それほどまでにモンフェルナという学校の名前は、一般にも通っている。
正直寒い。いつも以上にカルメンの表情が動かない。
「ヴィズ、お母さんみたい。ホッカイロとかいっぱい持ってそう」
するとヴィズはポケットに手を突っ込む。そして握る。
「何個か持ってるけど」
「持ってるのかよ」
呆れたようにイリナ。たぶん明日も明後日も、終わるまで毎日持ち歩いているのだろう。自分以外にも気を使えるヤツ。
このあと弾く予定のブリジットだが、すでにある程度は指を慣らしており、今すぐにでもいける気がしている。服装はそのまま制服。これが一番しっくりくる。
「うん、ありがと。大丈夫。弾いてれば、温かくなってくると思うし」
控室にもアップライトだがピアノがある。ギリギリまで触れていられる。問題はない。アトリエの人からは、テンションの保ち方とか色々教わったし。
柔らかなキャンドルに包まれる。ほのかに優しく香る。ここにいる人々。どことなく、それとなく幸せの純度が上がる。
もうすぐ始まる。いい演奏になることはわかっている。それでもベルの気持ちは昂ってくる。
「なんだか私が緊張してきちゃった。ね、少し弾いてもいい?」
フライングだけど。自分は四日目だけど。その日は特別に自分専用の調律を入れてもらうけども。やっぱ目の前にピアノがあるとそうなっちゃう。
気持ちは若干ヴィズにもわかる。だが、それとこれとは別。
「やめなさい。もうすぐ始まるんだから」
「ベルがやるなら私も。負けらんない」
「お? 勝負すっか?」
そこにカルメンとイリナも参戦する。結局は全員そういうこと。聴いてくれる人達がいて。そんな感じの雰囲気で。となると、好きなことは止められなくて。




