348話
しかし、ブリジットやフォーヴは納得していたが、ニコルはそうもいかない。
「なんでリンゴなの? ショパンてリンゴが好きだった?」
ちなみに自分は好き。パイとかジュースとか。そのままも。
そしてブランシュがこの果実とショパンに込めた想い。たぶん、誰もわからないだろうけども。でも、それでいい。
「それ以上にリンゴというのは、とても不思議な果実なんです。リンゴというと、なにか思い浮かべるものはありませんか?」
あるっちゃある。食べる、以外でニコルの頭に浮かぶもの。少しオカルトというか神話的な。
「んー、アダムとイヴがなんか食べちゃダメなのに食べちゃった、とか」
「というのが有名な話ですが、実はその禁断の果実、リンゴであったという確証はないんです。アプリコットやイチジクであった、などとも言われています」
一回のラリーで欲しい回答が返ってきたブランシュは、内心驚く。でもそれがバレたらまた文句を言われるので黙っておく。
そんなことは露知らず、素直に気になったニコル。え、でも色んなとこでリンゴが禁忌っぽい役割を担っている。
「マジ? なんでリンゴになっちゃったわけ?」
隠された真実。いや、たぶんネットでも調べれば出てくるんだろうけど。調べようとも思っていなかったので、非常に気になる。
うーん、と若干言いづらそうな口調のブランシュは、色々本などを読んだ結果を告げる。
「それに関しては明確な答えがないのですが、ニュートンの万有引力の発見や、ミルトンの『失楽園』、童話などで多く使用されることもあり、人々の中で『リンゴとは特別な果実なのではないか』という考えが広まった、という説もあったりなかったり」
「どっちなのよ」
「私も専門家じゃないんですからわかりませんよ。赤くて丸い姿が食欲をそそるとか、地球の形に似てるとか、それこそ色々ありすぎて。中世の画家が創世記を描く時には、みんなリンゴで描いてたらしいですが。ヨーロッパではリンゴはメジャーですし」




