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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
消えるように。
346/369

346話

 それにしてもたしかに、自身でも驚くほどすんなりと香りが決まった。考えられる要因としては、ジャズ。感情の振り幅。ショパンの曲にはある特徴がある。マズルカにもエチュードにもワルツにもソナタにも。それは旋律が『上がって下がる』ということ。他の作曲家にももちろんあるが、特にショパンには多い。


 鍵盤を右へ左へと滑るように動く。この動きは、より感情表現が豊かであることを示している。だがここで重要なのは『下がって上がる』というバロック時代に多かった表現ではなく、ロマン溢れる『上がって下がる』ということ。ここに意味がある、と考えた。


 悲しく、切ない曲は。より美しさを増す。喜びというものを知るからこそ引き立つ。先に知るからこそ。ジャズの湧き上がる内側からくる歓喜。そのちょっとした意識の違い。ほんの少しジャジーな香り。たぶん、人によってはショパンらしくない、と言うかもしれないけど。


 ショパンといえばクラシック。クラシックといえばショパン。だけど、ショパンは尊敬するバッハやモーツァルトが作って歩んだ道をなぞるだけではなく、自分のために新たな道を作り出した。


 ほとんどピアニシモ・ピアノ・フォルテ・フォルテシモの四段階しか強弱を記さず、ごく稀に記されるフォルティッシッシモは、他の作曲家のフォルティッシッシッシッシモに匹敵する、とまで言われるほど。穏やかで。歌うように。自然体で。揺れるように。心地良い彼の曲の所以はここにある。


 スウィングするジャズのリズムは、どこかブランシュにはショパンと通じるものを感じた。同じような弾き方をしなかったという彼の即興技術も、ジャズに近い『なにか』が。他の誰にとって違う香りでも、自分には少なくとも。そう感じてしまったのだ。


「世界三大調香師、とも言われているジャン=クロード・エレナは、トップとミドルとラストにそれぞれ一種類ずつしか使わない、なんてこともザラです。ただ、例えば使う花の香りにしても、東南アジア産やマダガスカル産など多様に使い分けていて——」

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