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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
消えるように。
340/369

340話

 そこにさらにブリジットは追加していく。


「あ、あと——」


「まだなにかあんの? 勘弁してよもー」


 全てに応える自信はサロメにはある。だがやりたいかどうかは別。あまりいじらない、も調律。結果。結果さえよければなんでもいい。


 そこに二人ぶんのコーヒーをマグカップに注いだここの社長、ルノーがドア向こうの簡易キッチンから。


「そう言いなさんな。ピアニストとの信頼関係。これ一番大事。ミケランジェリと村上輝久くらいの関係が理想」


 小さくコトッ、とテーブルに置く。どちらもミルク砂糖多め。味はそこまで保証しない。だってバリスタじゃないし。ここ、ピアノ専門店だし。


 二〇世紀を代表する名ピアニスト、そして名調律師。調律師をやっていて、その二人を知らない人物はモグリ。ミケランジェリは「村上が調律しないなら演奏しない」とキャンセルすることも多かったドタキャン界の王でもある。


 ちびっとコーヒーを口に含み、もう少し甘めがよかったんだけどなー、と淹れてもらいながらも不満を持ちつつ、サロメは呆れ顔になる。


「どーも。で、余計に嫌よ。なんであたしが同伴しなきゃなんないのよ。暇そうなラン……アレクシスとかいうオッサンに頼めば? あの人ならダイジョーブでしょ」


 口を突いた名前をギリギリで変更。あいつは……今はいいや。最近このアトリエに足を踏み入れた調律師の名前を口にする。


「? ……あ、ありがとうございます」


 ブリジットには初めて聞く人物。だがサロメが認めている、というのは少し気になる。誰に対しても傲岸不遜の彼女が。


 しかし呆れたようにルノーは否定。


「彼はウチの調律師じゃないでしょ。勝手に数に加えないの」


 どうやら勝手に外部の調律師を、このアトリエの人間として働かせようとしていた模様。らしい、といえばらしいか。ほんの少しブリジットは気が楽になる。変わらない人物、というのは落ち着く。ところで。


「……ねぇ、この香りからサロメはどんな曲が想像できる?」


 右手の甲を差し出す。ここに塗布された香り。だいぶ薄まってしまったが、自分には。わからない。見えてこない。聴こえてこない。

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