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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
消えるように。
336/369

336話

 プイッとそっぽを向くブリジット。そしてツーン、と冷たくあしらう。


「別に……勝負してないもん……」


 音楽は戦うものではない。それを聴いた人がどう捉えるか。それだけ。だから別に勝つとか。負けるとか。そんなのはショパンへの冒涜のようなもので。だが。


 心に去来しているもの。


(……私が『合わせることができなかった』。勝ち負けじゃないけど。勝ち負けじゃないけど。もし、そんなのがあるなら……私の、負け)


 もし第二楽章以降もやっていたら。きっと、チェロの推進力に巻き込まれて崩れてしまっていたかもしれない。ただの伴奏係で、対等な関係性は築けていなかったかもしれない。それほどまでに、彼女のチェロは重厚。『新世界より』を聴いた時にわかったつもりでいた。それなのに。悔しさが残る。


 これで自己紹介は済んだわけで。それが目的でもあったわけだが、小悪魔にフォーヴは誘惑。


「さてさて。私は時間はあるんでね。いつまでここを使えるかわからないが……どうする?」


 様々な感情。叩き潰したい。もっとぶつかり合いたい。混ざり合いたい。さらに引き出しあいたい。


 仲良く、なんて優しい残酷さはいらなくて。バチバチと火花が上がるようなショパン。「ついてこれないの?」と上から目線で罵りたい。それでより、ショパンへの理解が深まるなら。喉から手が出るほど欲しい屈辱。


「……やる」


 何度も顔を歪ませて、頬にリスのように空気を溜めたりを繰り返しながら、ブリジットは渋々感を出しながら了承。やる気がある、と見られたく。ない。


 内心はどうであれ、遊びに来たフォーヴとしてはありがたいこと。なんだったら夜通しやっても問題ない。


「いいね。そうこなくちゃ。グノーの『アヴェ・マリア』とかどうだい? ショパンじゃないけど」


「弾ける。大丈夫」


 ふぅ、とブリジットは小さく息を吐く。一九世紀にここパリで生まれた。バッハの平均律クラヴィーア曲集のプレリュードを、ほぼそのまま伴奏で使うという、なんだか限りなく黒に近いグレーな曲。それをチェロとピアノで。面白そう。

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