333話
「? はい、わかりまし……た?」
やっぱり、知り合ってからの期間は短いとはいえ、こんな彼女は初めて見る、と困惑するブランシュ。何事もなく今日が終わること。それだけが願い。
「やれやれ。問題児ばかりだねぇ」
困りつつも楽しそうにニコルも続いてホールへ。やっぱり楽しいようで跳ねるような足取り。問題? 危険? そんなの。あるほうが『生きてる』って感じするでしょ? 最前列へ勢いよく座る。
そして各々が指を慣らすなどして演奏の下拵え。軽く音の確認をして、集中力を高める。
「どうだい? こっちはいつでもいけるよ」
チェロは基本的に座って弾く。だがフォーヴの場合は、ストラップをかけて立って弾くことを好む。このほうが個人的にやりやすいから。イスに座ったぶんだけ不純物が混ざる、とかいうわけではないけども。
ふぅ、とブリジットも息を吐いて呼吸を整える。怒りとか不満とか。そういうのは一旦置いて。ショパン。私だけのショパン。スーツをピシッと着こなして。ハットも被ってみたり。少しお茶目なところもあるとなおよし。
「私も。いつでも」
目で合図。それを受けたブランシュは。
「……それでは」
構えに入……ることなく、ヴァイオリンを下げた。弾くつもりは……ない。
「?」
異変を察知したフォーヴだが、それから間を置かずにピアノが演奏を開始する。重苦しく。切ない。それでいて美しい旋律。
「……これは」
しかし理解に時間を使っている余裕はない。すぐに自分の出番が来る。ピアノ協奏曲のつもりでいた脳を切り替える。
なんとなく。三人の雰囲気からニコルは歯車の噛み合わなさのようなものを感じた。イレギュラー、というか。戸惑いと決断の色。
「……あれ? ブランシュ?」
そしてまるで仕事を放棄したかのようなヴァイオリン。指ではなく耳に全集中。これではまるでピアノとチェロのみになってしまう。




