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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歩くような速さで。
33/369

33話

 唇を尖らせて、ニコルは文句を言う。


 気分で上下を決めるので、どうせ今言ったことも、後で忘れて上で寝ているだろう。ブランシュは断固として決断していた。


「そういう問題じゃありません。そろそろ寮長が怪しみ出す頃です、面倒見きれません」


「うー……」


 唸った後、水を打ったようにニコルは静かになる。電池が切れてしまった人形のようにパタリと動かなくなってしまった。と思ったら時折ビクビク動く。ちょっと怖い。


 三〇秒ほど無視していたが、少し言い過ぎたかと思い、ブランシュは台所に隠して置いたノネットを取り出し、静かなニコルの肩に触れようとしたところ、彼女が飛び起きる。


「うわっ!」


思わず、尻餅をついて目を丸くする。


「ん? ならとりあえず、これ着て学園内ウロウロしてこよ」


 と、ニコルが枕の下から取り出したのは、モンフェルナ学園の制服一式だった。綺麗に折り畳まれており、皺ひとつない。


「……ど、どこで手に入れたんですか……」


 そのままの体勢で、上ずった声でブランシュは聞き返す。


 ニヤッと笑い、ベッドから降りてそのまま着替える。下着も女同士だし気にしない。一式身につけて「変なとこない?」と問う。身長もあり、小柄なブランシュよりもワンサイズ上の制服だ。


「シルヴィがくれた。アメニティごと。いやー、持つべきものは友だね。友達っていいよー」


 まだ起き上がれないブランシュの手を握り立たせると、ほのかに香水が香る。『光』ではない。少しウッディな、たぶんこれは安らかな麝香の香り。この数日、少し平穏な生活にスパイスを効かせすぎたか、と、はにかみ抱き寄せた。


「……?」


 唐突に物理的に距離が接近し、ブランシュは驚きの連続で脳が追いつかない。それでも、ニコルの身につけた香水の香りを判別しようとしてしまう。アンバーとエバニールの合わさった、優しい香り。その香りに包まれ、なんとなく、大きく見開いた目を瞑り、身を任せた。が。


「守衛さんはどうするんですか。妹って言ってたのに制服持ってるし学生証は持ってないし」


 そのままの状態で疑問を投げかけた。言ったこととやっていることが滅茶苦茶なことになっている。さすがに既に怪しまれているのに、上塗りするようなことがバレれば、もう逃げることはできないだろう。


「抜け道あるから大丈夫。カメラの死角」


 離れたと思ったら、あっけらかんとニコルは言い放つ。きっとシルヴィという人に色々と悪知恵を託されたのだろう。


「……なんでもう私よりここに詳しいんですか……」


 もうなにがきても驚かない。ブランシュは衣服を正し、イスも元の位置に戻す。でも少しまだドキドキしている。そしてザワザワもする。まだ会って二日と数時間。自分にはない世界を持ち、自分の世界を良くも悪くも広げてくれている。あのまま学園生活を続けていたら、なにか変化はあったのだろうか。そう、考える瞬間がある。

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

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