328話
一応、ベルは花屋で働いているため、まだ予定は未定ではあるが。なんとか休みを希望。というか店主が休みたくなったら閉まる店なので、たぶん融通は効くはず。
「私もその予定。なんか楽しみ」
ひとり、その中ではイリナの顔は浮かない。不満。そんな空気を纏う。
「……ブリジットもブランシュとやりたい、って言い出した」
不満、というより羨望。なんだかやりたいことをやりたいように。羨ましい。自分だってブランシュと、また違う曲をやりたいし、なんなら作曲家は違うけど『死の舞踏』もねじ込んだりして。全然構わない。ま、お祭りだし。多少は。
その事実。カルメンにとっては寝耳に水。そんな面白そうなことを。我慢してたのに。
「なにそれ。聞いてない。じゃ、私も」
「私も! そうなったら主役は完全にブランシュだね。聴きにきてくれてるコンヴァトの講師の人達もびっくりしちゃうんじゃないかな。すごい掘り出しもの! って」
すでに未来の心配をするベル。一気にスターダムを駆け上がっていく、というのは無理としても、彼女のヴァイオリンには特別なものがある。そしてそれは講師ほどの人物であれば逃さないだろう。なんだか自分のことのように張り切ってしまう。
その気持ちはイリナにもある。だが、ブランシュ・カローという人物をその状況に当てはめると。
「そりゃあたしもだけどさ。なんかこう、すごいヤツだし、いいヤツだし。もっとすごいところにいける、たぶん。でも、なんかなぁ」
では彼女がそれを望むか? 答えは否、だろう。まず、目立つのが嫌い。よくもまぁ、ヴィズと一緒とはいえ人前に立つ決意をしたなと。でもそれを決めたのは二ヶ月くらい前。だとすると、今になって少しビビってきているかも。いや、絶対そう。




