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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
消えるように。
325/369

325話

 毎度お馴染みになってきたブランシュの解説。もはや反射的に口が動く。


「ショパンの『チェロソナタ ト短調 作品六五』は、生前最後に出版された曲なんです。そこから先の作品が遺作、ということになるので、ショパンの中ではこの曲で終わらせたかった」


 ショパンが公開演奏を行なった最後の曲。この時期の彼はまさに末期という体調で、診察した三人の医者のうちひとりは「すでに死んでいる」という診断までしたほど。だが『舟歌』や『幻想ポロネーズ』など、傑作を生み出したのもこの時。死の淵でさらに研ぎ澄まされたのかもしれない。


 中々、首を縦に振ってくれないことに業を煮やしたフォーヴが助け舟を求める。


「頑固だね。ブランシュからもなんとか言ってくれないか? 私はブリジットとの演奏を楽しみにしてきたんだ」


 話を巻き込まれたブランシュ。と言われましても。


「いや、私からはなにも……」


「私はブランシュと弾くから。フォーヴとは、弾けない」


 こちらも勝手に話を進める。案外わがままなところがあったりする。香水作りのためにもブリジットはこんなことをやっている場合ではない。決まったのなら、今すぐにでも取り掛かりたいのだから。しかし。


「おやおや。ショパンはピアノの次、いや、同じくらいにチェロを愛していたというだろう? その否定的な態度はショパンを悲しませるんじゃないかな」


「チェロは好き。フォーヴは好きじゃない」


 二人ともに引かない。声を荒げたりすることはないが、その静かな争いにブランシュも胃が痛くなる。


 ここは自分の出番、とばかりにニコルが仲裁を買って出る。


「どうどうどう。ケンカはよくないね。わかった、ここは。ここは三人で。なんかないの、ショパンを三人でやるやつ」


 が、結局はブランシュ頼み。音楽のケンカは音楽で終わらせる。これ人類の知恵。


 なんとなくこうなることはブランシュにもわかっていたので、もうさほど驚かない。巻き込まれ体質。


「あるには……ありますけど……」


「よし、じゃそれやろう。ブリジットとしてはブランシュと弾ける、フォーヴとしてはブリジットと弾ける。一挙両得。これでいい?」


 パン、と手を叩いて悪い気をここで払うニコル。決まった。なら。早速。


「私の意思は……」


「ないよ。はい、準備準備。行くよー」


 腑に落ちない、というブランシュのことは放置しておいて。こういう時に話を纏めるのが私でしょ? それがニコル・カローっていう私でしょうよ。

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