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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
消えるように。
322/369

322話

 引き攣った笑いでニコルはひとまず受け止める。


「……あ、そう……」


 やっぱり。変わりもんだわこの時代の人達。


 深く背もたれに身を預けるフォーヴ。そう。どこか人間としてのなにかを捨てているから、そのぶん音楽的な能力がその隙間に埋まる。


「ま、作曲家なんてみんなそんなもんだよ。尖るからいい曲が作れる。順風満帆な生活を送っていた人物なんていたかな? 誰も彼もがお金に困っていた気がするよ」


 それは当然ショパンも例外ではない。贅沢な生活をやめることができず、どんどんと借金は膨らみ、パトロンがひたすらにお金を工面していた。死後もさらに借金を重ねて葬儀などを取り行ったほどに。


 ブリジットもわかってはいる。完璧超人で聖人君子でないことも。だがその危険な香りがいいとか、そんなのではなくて。


「音楽がいいから……いいの」


 生み出した曲。それが全て。だからこそショパンコンクールは世界最大の権威のあるものなわけで。いつかあの舞台で。ショパンとショパンの国の人々に見守られながら。


 ここでニコルの合点がいく。先日、ブリジットと会話したことの内容。求めること。


「なるほど。ショパンと結婚したいわけじゃない、って言ってたのはそういうこともあるわけね」


 たぶん恋多き男だったのだろう。こういうのと付き合ったり結婚したら大変そうだ。絶対に他に女作ってくるだろうし。そりゃ、一曲一緒に弾くくらいが適当だわ。


 といった考えがブリジットにも読める。そしてそれは当たらずとも遠からず。弱々しく否定するのみ。


「そういう、わけじゃない……けど……」


「一体なんの話ですか……」


 なんだかどんどんと方向性がズレている気が。聞いているブランシュにはそう思えてならない。


 実際、リストやショパンなど、この時代の作曲家は非常に女性人気が高かった。数多くの女性と浮き名を流し、相手が結婚していようとかまわずアタックを続けるほどに。夜遊び好きなショパンはそれでも控えめなほうで、フラれそうになると曲を作って繋ぎ止めようとしたという逸話もある。

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