321話
余裕を見せつつフォーヴはさらに攻め立てていく。
「随分とショパンに心酔しているね。夜の二三時には寝ているのかな? 靴下はウール?」
そのやり取り。全くニコルにはピンとこない。
「? なに? 二三時とか、靴下とかって」
当然のように解説を姉に求める。今どき二三時に寝る? 自分は朝どころか昼くらいに帰ってくることも多い。もちろん寝ていないし、ウールの靴下て。暖かそうだけど。
なんだか嫌な予感がする。ピリピリと気が張るような。ひとまずは求められたようなのでブランシュは解説を挟む。
「……ショパンは健康状態が悪いことのほうが多い人物で、主治医からはそのように言いつけられていたそうです。一切守っていなかったらしいのですが……」
病気で亡くなる作曲家は多い。たしかにショパンもどちらかといえばそういう傾向にはあったが、彼の場合も他の例に漏れず、やりたいように生きていた。その結果、三九年という短い生涯になってしまったのは無関係ではないだろう。
そんな早い時間に寝て。靴下履いて。ニコルはこの先の繋がりが全くわからない。
「ふーん、で、どうなったのそれ」
「婚約破棄です」
「いや、どういうこと」
なんでそうなるのか。斜め上からのブランシュの結論に、呆れを通り越して怪奇の表情を浮かべるニコル。
気持ちはわかる。なので細かくブランシュは説明を加える。
「元々は先の条件は、ショパンの婚約者の家族から出されていたものだったんです。自分の体を労って、ちゃんと自分の娘との未来を見据えているか。ですが、結果はこんなことに。それをきっかけにして、どんどん婚約者からの手紙も淡白なものになっていき……という流れです」
以上。自業自得といえばそれまで。まぁ、親としては娘の心配をしていたわけで。その通りになってしまったわけだが。




