304話
元々ジャズはクラシックを含め様々な音楽を取り入れ、雪だるまのように積み重ねていったジャンル。そこからさらに派生して、もはやどれだけ種類があるのかもわからないほどに。
なので、なんらおかしい話ではない。むしろ、高揚感のようなものがブランシュの内側に生まれてくる。
「クラシックを……」
それは。面白い。そういうものがあるとは聞いたことがある。だが、実際に演奏したり、聴いたりするのは初めてかもしれない。どこかで聴いたこと……たぶん、ない。
なにやら悩んでいる少女の背中は押すべきもの。そうマノンは判断した。
「もちろんスタンダードなジャズもやるよ。なんでもやる。ジャズだからね」
なんて便利な言葉。『ジャズだから』でどんなことも許される。気がする。
「フィドルの経験は? 同じものだが、あるとなお喜ばしい」
鍵盤蓋を開け、準備に取り掛かるクロティルド。指慣らしに軽く。ここに先に来て少し弾いていたが、まだ温まりきっていない。
どちらかというと、クラシックよりは民族音楽系のほうがジャズには近い。クラシックが作曲家の意図や解釈、技術などを重視されるのに対し、踊りやノリを重視する民族音楽。フィドルのワンクッションがあるとスムーズに移行できる。そうであるとありがたい。
忘れもしない地下鉄のこと。申し訳なさがブランシュの脳裏に。
「……以前に。『ジョン・ライアンズ・ポルカ』など」
そういえばサンドリーヌさん達は元気だろうか。今も変わらず無許可で……いや、考えるのはやめておこう。今はこちらのことに集中。
その曲。『タイタニック』。パッとクロティルドの顔が明るくなる。
「ほぉ。アイリッシュか。いいね」
そうして軽やかに弾いてみる。踊り出すように。少しずつスピードアップ。うん、やっぱりいい曲だ。




