302話
「その子が電話の? クラシック、って感じの見た目だ」
同じく音楽科のレッスン室。先ほどのホールのような大きさはない、個人レッスンなどを受ける際に使用する場所。カワイのグランドピアノ。そのイスに座る少女が、室内に入ってきた人物を分析。
壁や床の材質は、以前使用させてもらった時のものと同じ。だがそこに置いてある楽器に少々の違いがあり、室内を見回すブランシュ。ピアノと……ドラムセット。
「はい……えっと、ここは……」
「あぁ、ごめんね。こいつはクロティルド・フォール。音楽科だけどジャズ専修のピアニスト。クラシック専修じゃない」
自己紹介はマノンから。「偉そうっしょ?」と余計なひと言。
音楽科には様々な専修というものがある。ヴィズやクロティルドのような実技系もあれば、音楽そのものを研究する研究系、指導者として育成する教育系、ホールやコンサートの企画、音響・照明などのビジネス系など。そしてそれらが枝分かれして、自身の学びたい専修を選ぶ。
実技系統でもクラシックやジャズ、作曲など幅広いジャンルがあるため、同じ科であっても全く出会わない人物は多い。
そこでブランシュは納得いった。たしかに、先のクラシックホールからは少し歩いた場所にあった。初めての出会い。
「ジャズの……はじめまして。ブランシュ・カローと申します」
もちろんジャズ専修というものがあることは知っていた。どこかですれ違っている人物ももちろんいるだろう。だが、ハッキリと相見えたのは初。なんだか背筋が伸びる。クラシック専修ももちろん自分の庭、というわけではないのだが、ジャズは完全にアウェーのような。
握手を求めるクロティルド。分析はまだ最中。
「よろしく。弾ければなんでもいい。グルーヴがそこにあるならね」
肉体がジャズ。精神がジャズ。あるいはそれら全てがジャズ。




