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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
消えるように。
297/369

297話

 だが、芸術の国フランスではあるが、ならば全ての教会のピアノがしっかりと調律されているか、というと全くそんなことはない。そこに楽しげにオーロールが切り込む。


「どーだかねぇ。整調もしてないし、整音なんてもってのほか。ま、聴けりゃいい人達がそういうのやるかもねぇ」


 はっきりと言って、ひどいところはひどい。音の出ない鍵盤、重いペダル。そんなものは当たり前、イスがないところもある。全く気にしないで、ある程度それっぽく音楽が奏でられれば、という場合のところが大半。


 しかしそれも仕方がない。教会にはパイプオルガンが備え付けられており、そちらを使うことのほうが多いうえに、教会内は冬場は非常に寒い。すると木でできたピアノの音は狂いやすくなってしまい、頻繁に調律するところなど、コンサートが定期的に入っていなければ稀であるのも頷ける。


「一年に数回しか触らないピアノのために、そこまでお金とかかけらんないよね。ここ在住、っていう調律師もいなさそうだし。でもなんとかしたいよね」


 クラシックを愛するギャスパー。できるだけ、多くの人に楽しんでもらいたい気持ちがある。素晴らしいものだから。だが彼だけではどうしようもないのも事実。国中のピアノの調律依頼、など現実的ではない。まず、もっと音楽に触れてもらいたい。そこから。


 熱弁を振るわれても、のんびりとした生き方を好むオーロールには全く響かない。熱血とか、根性とか。そういうのいらないデショ。


「私は別にぃ? ノエルも新年も変わらず、穏やかに暮らせればそれでいいよ。気が向いたら弾く、くらいがちょうどいい。音楽自体は好きだし」


 自分の価値観。これ大事。ストレスを溜めてまでやることじゃない。


 気持ちはわかるけども。ギャスパーとしてはもうちょっとだけでも、この子にはやる気を出してもらえると助かる。


「そんなもんかねぇ」


 諦めムード。時間をかけてもどこまで傾くのやら。


 無言で過ごす時間。とても贅沢に思えるほどに、ここはゆっくりと時が流れる。


 そこへ村の少年らしき子供がベンチの前に。サッカーでもやっていた帰りか、服に汚れがところどころ。


「ねぇ、オーロール。なんか弾いてよ」


 そして指を指すのは、ベンチに立てかけられたヴァイオリンケース。ムッと口を結び、可愛らしく睨む。

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