293話
思い当たる節がある。音楽科じゃなくて、ヴァイオリンが上手い。それとたしか……それがマノンの中で結びついた。
「……あー、もしかして。ヴィズとかが言ってた子、かな。普通科なのにめっちゃ上手いっていう」
だとしたら想像以上。聞いていた以上。世界ってのは広い。
少しずつ視界が開けてくる。色が戻ってくる。全てがブランシュには新鮮に取り入れられる。
「私かどうかは……わかりませんけど……ヴィズさんとは時々一緒に演奏させていただいています。本当に……申し訳ないくらいに……」
お互いにギブとテイクの関係、ではあるけれども、どう考えても受け取っているもののほうが大きい。もらってばかり。ちゃんと自分は提供できているのだろうか。
じっとマノンは見つめる。じっくりと吟味。
「ふむ」
「? ……なにか?」
選別されているような。居心地の悪さをブランシュは覚える。とはいえ、そもそも自分がここに場違いで、いるほうがおかしいわけで。文句は言えないけれども。弾いた曲、違ったかな。合ってなかったかな。聴衆はどうでもいい、と思っていたが、弾き終わると元の自分に戻ってくる。他人の顔色を窺ってしまう。
マノンの考えていること。『いいもの見つけた』。
「いやなに。驚きは驚きなんだけどさ。ちょうどよかったと思って」
腕のいいヴァイオリニスト。そしておそらく、グイグイいけば首を縦に振るタイプ。押しに弱いタイプ。思いがけない幸運。
まだ話が読めないブランシュ。読めないが、今までに何度かあるこの空気感。そういう時はだいたい。
「? それはどういう——」
「ジャズ。いけちゃう?」
唐突なマノンの誘い。今、ここはクラシックの練習場所なわけで。いけちゃわなかったとしても、なんだかここでハイさよなら、とするのも惜しいと勘が告げる。
目が点になるブランシュだが、瞬きを数度繰り返すと、冷静に返答。
「ジャズ……何曲かは……本格的に練習したわけでもないので、期待に応えられるかは……」
それもかなり前の話。ジャズはあまりにも種類が多すぎる。求められているものなのかもわからないため、かなり弱気に。だがもちろん、嫌いというわけではない。独特なリズム感は、自分にない感覚を与えてくれるようで、むしろ好き。




