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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
消えるように。
284/369

284話

 人生など影法師。有名な言葉。


「シェイクスピア、ですか……」


 声は。私の知っている情報から抜き出したように。もしくは脳を覗き見ている。


「その通り。人生は儚い。運命に抗うことなどできない。考えるだけ無駄だ。神の手の上の出来事なんだよ全て。なのになんだってキミはキミ自身に嘘をつく。なんの意味があるっていうんだ?」


 問いかけるそれは。問うというより諭すようで。心地良ささえ感じるほどで。


「嘘なんて……私は……」


「いや、キミは嘘をついている。だが安心していい。嘘をつかない人間などいないのだから。大なり小なり、人間は嘘をつく。問題はそこじゃない。どんな役を演じているのか、だよ。ショパンは最初から最後まで詩人を貫いた。美しいね。貫き通すとピアノの詩人のモデルになる」


 遮るように言葉を紡いでいく声。音楽に全てを捧げ、死の寸前、いや、死んでからも詩を残すフレデリック・ショパン。死に近いからこそたどり着いた境地。尊敬に値する。


「彼は……」


「彼は自分の死よりも、詩人であることを選んだんだよ。知っているだろう? 彼は最後、パリに戻る時に友人に、自分の部屋にスミレの花を置いておいてほしいと頼んだ。それは殺風景だからとかいう理由ではない」


 その話も知っている。有名。ショパンがその願いを込めた理由。


「……詩に出会うため」


「そう。彼にとっては食事も睡眠も娯楽でさえも、より良い詩に出会うためのきっかけに過ぎない。全てが詩に繋がっているんだ。だがそんな彼も。世界という舞台の役者なんだよ。キミはそこまで、ショパンのように全てを集約してたどり着きたい場所はあるのかい?」


 いや、ないね。わかっている。ブランシュ・カローという人間の。最終的な目的地。それはきっと。


「……」


「あぁ、すまないね。なにも責めよう、なんて思っているわけではないんだ。その悩んでいる様も、世界にとっては役に立っている。キミも取るに足らないこの世界の役者なんだ、わかっているだろう? ××××・×××。踊るんだ。そして。私を追い求めるがいい」


 それを最後に声は消えた。いない。この世界のどこにも。最初からいなかったのかもしれない。その声が残したもの。私の。本当の——

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