283話
音楽、というものがわからなくなる。
どこからが音楽で、どこからが音楽じゃないのか。音が鳴ったら音楽なのか。音が鳴り止んだら音楽じゃなくなるのか。歴史に残ったら音楽なのか。人知れず消えていったら音楽じゃないのか。その人が音楽だと思えば音楽で、音楽じゃないと思ったら音楽じゃないのか。
答えなど出ない。なぜなら答えなどないから。辞書をひけば定義は書いてあるんだろうし、その通りなのだろう。百人いれば百人が「あーたしかに」って納得する。だけど私にとってはもっと、ドロっとした確固たるもので、カッチリとした曖昧なもので。
なら私が音楽をやる意味ってあるの? 私がやらなくても、ネットを探せばもっと上手い人の演奏が。もっと深い解釈が。なら、私の生み出すものなんて価値があるの? 価値があるかどうか、なんて考えていること自体がつまらない。
「芸術に価値があるか、ってのは観ている側、聴いている側が後付けで付けるもんなんだよね。ピカソが描いたから意味があるのであって、無名の画家がゲルニカを描いたって一銭にも……一銭くらいにはなるのかな? ともかく、ピカソに価値がある、って決めつけているのも、こっち側」
声が聞こえる。これは誰の声? いや、わかっている。
ただの音楽、では意味がない。付加価値、そう、それがあるからこそみんなの心に残り続ける。でも、そんな簡単にできるのであれば、みんなやっている。
わからない。考えすぎている? もっと芸術って自由なはずだった。音楽も。香水も。ファッションも。絵画も。私ってなに? ブランシュ・カローって一体、なに?
「青春してるね。素敵だ。求めていたものだよ」
声が脳に響く。まるで自分を支配するように。いや、自分自身であるかのように。
私には。その言葉の意味など理解できるはずもなく。
「……青春……ですか? ……青春は、青春って、なにをどうすれば青春になるんですか?」
「青春は、気づいたらなっているものだよ。誰かが決めるものでもない。『人生など影法師』。キミはこの世界の役者なんだ。踊り回らなきゃ」
声はたぶん。見えないけれども笑っている気がする。嘲笑、のような。でも蔑んでいるのではなく、とても親身になってくれているような。気もする。




