277話
なんとなく。なんとなくニコルはこの雰囲気を知っている。ギャスパー・タルマを慕うブランシュのような。とすると、一応聞いてみたいことがある。
「もしショパンが墓から復活して、ひとつだけ願いを叶えてやろうって言ったら、結婚とか付き合ったりとかする?」
果たして、ピアニストやらヴァイオリニストというものは、そういうロマンティック……ロマンティックか? な状況とかに憧れるのだろうか。検証。データは多いほうがいい。使い道はないけど。
そう言われてみると、ずっと追いかけてきたブリジットにとって、ショパンというものをどう捉えているのか。彼の音楽。それだけを追い求めてきたから。意外な提案。そして答え。
「……そんな仮定の話……いや、でも、それはない、かな。あくまで憧れだから。ショパンの作曲した曲を、自分なりに演奏したり、他のピアニストの演奏を聴くのが好きなだけ。でも……」
「でも?」
珍しく興味ありそうにニコルが食いつく。本当にショパンのことになると饒舌になるんだ、と感心しつつ。
自らの両手を見てみるブリジット。現代のピアノは、フランツ・リストの手の大きさを基準に作られていると言われている。しかしショパンはリストよりも手が小さく、幅の細い鍵盤を使っていた。女性でも演奏しやすいサイズ。ということは。
「もしそうなったら……せっかくだから、一緒に一曲どうですか、って弾いてみたい。ショパンの曲を、ショパンはどう弾いたのか。やっぱり気になるから」
きっとその時間は素敵で。鍵盤の上で踊る彼の指。スケルツォとかで見てみたい。
どうやらブランシュとは少々違った意味でぶっ飛んでいる。それをニコルは再確認。
「はぁー、たぶんだけど、ブリジットも大概にピアノ廃人ね」
ここまでのめり込めるものがある。羨ましいようなそうじゃないような。結局、特に香水の糸口になるようなものは得られずにいる。




