表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
消えるように。
274/369

274話

 そんな風に、ありがたいことに距離を詰めてくれている。ありがたい、こと。だから自分も。ショパンに恥ずかしくないように。そう、ブリジットは心臓のスピードを手なづけていく。


「……ニコル、なんかすごいやる気、だね。いつもは……なんか、風まかせって感じなのに」


 ちなみに『ミストラル』はフランス南東部から地中海に吹く風。案外強い。自身の心にも吹いてもらおう。


 そう改めて言われると、たしかに今まで自分がやったことと言われて、ニコルが思いつくことはなにもない。出来上がるのを待つだけだったから。


「いやー、ちょっとね。うちの姉が? どうやら? 今回はポンコツかもしれんのよね。困った困った」


 だが不思議と焦りはない。なんとかなるだろう、と高を括っている。ならなくてもまぁ、なんとかなる。はず。そもそもが頑張ろうとしていたのはブランシュなわけで。自分は流れに身を任せる。


 なぜ香水を作ろうとしているのかなどは、ブリジットは当然知らされていない。だが、ここまでの作製も趣味の範囲、というものでもない気がしている。


「それは……たしかに、困る、かな。ノエルのリサイタルもあるし、ヴィズは一緒にやるって言ってたから」


 そしてそれを作り続けているブランシュ・カローのメンタル面。なぜ、作ることをやめないのか。なにか隠している……なんて考えたくはないけど。というか、隠してまで作るってのもよくわからない。きっと好きだから、だろう。


 うんうん、とニコルも表情が渋くなる。


「そうなのよ。迷惑かけちゃいけない、って自分で言ってたはずなのに。もっと発破かけたほうがいいのかね」


「それは……可哀想、かな。元々はヴィズが勝手に誘った、って言ってたし。音楽はやっぱり……楽しいものだから。辛くなってまで、頑張る必要ない……って、音楽やってると、絶対に辛い時期って、あるんだけどね」


 だがブリジットとしては、そんな『辛い時期』にしか出せない音もある、と信じている。ショパンの教え。毎回違うように弾くこと。それを自分なりに消化した結果。自分はそれも楽しめる。頑張れる。もしブランシュもそうであるなら。楽しんでほしい。手伝いたい。


 なんにせよ、作れればニコルにとってはなんでもいい。


「ふーん……そんなもんかねぇ……」


 なんだかピンときていない模様。これ以上はブリジットにも伝えられることは今のところない。なので。


「……」


 ひとまずピアノを弾いてみる。音が風に乗る。このレッスン室を。小さな幸せが満たす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ