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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歌うように。
259/369

259話

 南フランスはヴァルボンヌ。イルミネーションに彩られた、穏やかに流れる時間。寒さを増してきた夜、それはメインの通りだけでなく、ひっそりとした小さな通りでも温もりの手は抜かない。石畳と人通りのない狭い道。そして置かれたベンチに座る人物や猫にも平等に人工の光は降り注ぐ。


 そこにコツコツ、という足音を立てて近づく少女。白い息を吐きながら、カラフルに照らされた幼い顔つき。


「……お久しぶりです」


 赤く染まった耳。コートを着込んでも小柄なその体躯。


 相も変わらず猫と過ごす時間を楽しむオーロール。冷え込んでもやることは一緒。


「おー、久しぶりだねー。帰ってきたの? パリはもういーい?」


 座ればー? 横を促す。長旅を労った。


 しかし少女はそのままの状態で話を進める。


「いえ……そうではありませんが……あなたがきっと。動いていると思って」


 そんな気がした。まるで失敗してもいいかのようなニコルの立ち回り。保険がかかっているような安心感。たどり着いたのは暗躍する人物。


 ニヒヒ、と声に出しながらオーロールは猫を持ち上げた。


「バーレちゃった。でも必要はなかったみたいで。よかったよかったー。まだ続くね。気楽に気楽にー。ほら、猫でも撫でて」


 されるがままの猫。撫でてくれるなら誰でもいい。この村と一体化したような、争いを知らない事なかれ主義。


 それも少女は断る。というよりも、聞いておきたいことが先に口をつく。


「……もう、私ではダメなのかと。彼女は——」


「そんなことよりさー。聞いたよ。ニコルから。キミさー」


 まごついた話はオーロールは嫌い。聞きたいことがあるのは彼女のほうでもあった。


「……」


 言われることは少女にはわかっている。それも承知で来た。俯き加減で話の権利を譲った。


 その反応も面白い。またもニヒヒ、とオーロールの声が漏れる。そして。


「今。ブランシュって『名乗ってる』んだってー?」


 穏やかな村。そこに風が。強く吹く。

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