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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歌うように。
256/369

256話

 当たり前のように門限を無視して帰寮し、部屋に入ろうとするニコル。その前にドアノブを握ると、なんとなく温もりがあるような気がした。一瞬立ち止まるが「ん?」と険しい顔つきになる。


「んんー?」


 やっぱり声に出してみる。まわりを確認。廊下。白い壁と木目の床。誰もいない。それもそう。基本は寝てる時間。悪い子じゃない限り。


「……」


 警戒しつつ入る。電気は一切点いていない。それもそう。寝ている時間なのだから。だが。


「誰もいない」


 誰も。ブランシュも。洗濯物、ということもない。フランスの洗濯機は時間がかかるため、その場にいることはほぼない。部屋の電気を点けようか訝しんでいると、目が慣れてきたのか壁際の机の上に一本のアトマイザーを発見。


「お、完成したのかなー」


 ならよし。そもそもそんな気負う必要もないものなのだ。爺さんの参考になればいい、程度。自分もわざわざ遠くまで行ったけど、もっと気楽に考えればよかった。ワンプッシュして香りを確かめ——


「……ん?」


 なにも入っていない。シューマン『詩人の恋』をイメージした香水。期限はシシーが国に帰るまで。もう間もなく。


「まだ……でき上がってないのかね。ま、そういうこともあるでしょ」


 もし出来上がっていなかったら、いや、出来上がっていないほうがいいのかもしれない。もう。あの子は。自分のキャパシティを超えるような、そんな辛い思いをせずに生きていけるのだから。


 ふと、オーロールから渡された箱をポケットから取り出す。この中に入っているもの。それがあれば。ブランシュは。だがそれは同時に——


「……どうすっかねぇ……ん?」


 携帯が鳴る。メッセージ。送り主はシシーから。


《明日の朝、キミの気になっていることが解決するはずだ》


 それだけ。まるでなにに悩んでいて、その解決方法がわかっているかのように。


「……いや、なーんにも言ってないんだけど……」


 全て読まれている。本当になんなんだろうこの人物は。


 静かな室内。下のベッドに寝そべる。音も。味も。光もない世界。シーツの手触りと、ほんの少し自分の香水香りだけ。


「……どう、なるのかね」


 考えても仕方ない。目を閉じて朝を待つ。


 その日、ブランシュは帰ってこなかった。

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