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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歌うように。
255/369

255話

 人々が寝静まった時間。ドアをノックする音が廊下に小さく響く。その部屋はシシー・リーフェンシュタールと、同じく留学生リディア・リュディガーのもの。それを叩く人物。


「……」


 数秒後、ゆっくりと開いたドアから少女の顔がヒョコっと出てくる。そして艶のある笑みを浮かべた。


「……へぇ。やっぱすごいね、読みどおりだ。本当に来た。どうぞ、入って」


 そしてその人物を中へ通す。パタン、と出口が閉まった。


「……」


 その人物は無言のまま、間接照明の灯った部屋に向けて突き進む。間取りは自分の部屋と当然一緒。やっぱりどの部屋もそうなんだ、と虚な目で確認した。


 壁に接した机。そしてそのイスに座って長い足を組みながら、まだ制服姿のシシーは出迎えた。


「やぁ。来たね。そろそろだと思っていたよ」


 他人の思考と行動を操るのは得意。真っ直ぐな瞳と、その内部に闇を抱えているならさらに。


 その者もそれに勘づいたが、ここまで来たのであればもう逃れられない。ドアが閉まった瞬間、退路はなくなった。いや、最初からそんなものはない。


「……」


 まだ声は発せない。口内が渇いていく。緊張、喪失、色々と混じり合った唾液で満たす。今、自分はどんな顔をしているのだろう。わからない。どう見られているのだろう。それもわからない。


 先ほどドアの応対をしてくれたリディアが、上のベッドに登って腰掛ける。彼女もまた、寝る時の格好ではない。外を出歩いてきたのか、私服のまま。


「話があるんでしょ? どうぞ。だいたいはわかっているみたいだけど」


 滞留してしまった場。その流れを促す。彼女もまた、どこか楽しそうに。


 「……」


 それでもその人物は無言。まだ、決意と覚悟が足りない。どうすればいい。どうすればいい?


「どうした? 俺に用があって来たんだろう? 抱いてほしいのなら歓迎するよ」


 受け止めるかのように、大きく胸を開いたシシー。彼女はそういったことに執着はない。姉妹校とはいえ、下級生が困っていたら相談に乗るのが上の者の務めである、そう疑わない。


 初めて動揺のような素ぶりをその人物は見せた。


「……!」


 本当に操りやすくて。可愛いね。シシーはさらに興味が出てきた。


「どうする?」


 笑みがどこか小悪魔的で。蠱惑的。


 たっぷりと間を置いたあと、その人物は脈動する心臓に後押しされ、ついにその上擦った声色を響かせた。


「……シシーさん、お願いがあります」


 会話の中身。なんなのかはわかっている。だが。あえて。シシーは。


「聞こうか」


 言葉にさせる。


 だって。


 そのほうが面白いでしょう?

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