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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歌うように。
247/369

247話

 フランスでは、デパートなどでは一月と六月に買い物に行くのが良いとされている。というのも、セールの期間というものが国で決まっており、そのぶん高級なブティックのものも半額以下になる。そして一二月はイルミネーションが飾りつけられ、ショーウインドウの人形達も毎年の楽しみになっている。


 それを間近に控えた店内では、着々と準備が進み、夜間の仕事量も多くなる。吹き抜けの五階にはガラスでできた回廊があり、まるで宙に浮いているかのような錯覚に陥る。そこにも業者によってライトが備え付けられている。

 

 二〇時半の閉店時間を過ぎ、お客もすでにいなくなったデパート内。まだ内部に人は残ってはいるが、足音などが多少響く程度の静けさに包まれる。灯りは警備員の仕事などもあり、まだ明るく照らされている。


 ピアノの音が出ない、という場合には一番多くの原因として湿気が関係している。鍵盤アクションを構成するクロスの部分が湿気により膨らむと、円滑なレスポンスが返ってこなくなる。その他、ピンなどが錆びていたりと様々だが、ルノーの熟練の技の前では難しいものではなかった。


「はい、これで完成かな。あとは試弾しながら微調整という感じで。人々の動きのある場所だし、クラシック用のホールというわけでもないから、どうしても様々な要素の中間地点というか。特化させることはできないんだけども」


 整調。ピアノを構築しているカラクリを正常なものに直す技術。丁寧な仕事でホコリなども取り除き、細かい調整も終わった。


 トーン、と高音域の鍵盤を押して確認したシシー。濁りのない澄んだ音。ホールのスタインウェイとはまた違う、厚みのある倍音。


「いえ、とても素晴らしいピアノにしていただいて感謝しています。ドイツの、ということで非常に嬉しいです」


 どうせなら、自国のものを味わってみたいと思っていた。それが叶う。多少は気持ちが逸る。


 そしてベル達から事情を聞き、感謝と同時に謝罪の気持ちが押し寄せてくるブランシュ。ここまでしてもらえるということに、なんだか頭を抱えたくなるほど。


「あの……ありがとうございます、前回に続き今回も」


 サン=サーンス『死の舞踏』の際にも協力を仰いだ。お世話になりっぱなし。


 いやいや、とルノーは胸を張る。


「それはあの子達に感謝だね。私は仕事を全うしただけ。このピアノに気付き、キミためにここまでしてくれたのは、きっと好きだからだろう。応えてあげてほしい」


 その彼女達は寮ではないため、家族が心配するのですでに帰宅。この場にはいない。

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