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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歌うように。
235/369

235話

(受動的ではなく、能動的に。自身から音を生み出す。今は。それしかできない。だから——)


 弱と強。弱く儚い音は希望を。強く明瞭な音は絶望を。自分の内部に突風を巻き起こす。マリーゴールドとジャスミンの香りを纏った暴風域。そこに残った一輪の白い花。ブランシュ。


「……これが。今の私です」


 時間にして七分弱。だが雪を耐え、寒さを耐え、開花する花のように。いや、まだそこまでではない。蕾がついた程度だが。新しい自分が雨と風に乗り運ばれてきた。そんな感触。


 言葉にするよりも伝わるものがある。それを音楽を通じて今、シシーは受け止めた。


「……やはりキミは——」


「おー。やってるねー。どう? どう?」


 言葉を遮るように勢いよくホールに入ってきた女性。言うまでもなくニコル。なんだか懐かしささえ感じる静寂と包容感。ここの空気は結構好き。


 階段を駆け降りて舞台下まで到達した彼女にシシーは手を広げた。


「いい感じだよ。俺も。この子も」


「ブランシュも?」


 そりゃ不調じゃ困る。基本はなにもしたくないニコルにとって、彼女は生命線。音も。香水も。料理も。洗濯も。朝のコーヒーも。いなくちゃ始まらないのだから。


「いい感じ……というのはよくわからないですし、暗中模索という状態ではありますが……」


 だが、その中に光を見たブランシュ。ほんの少しだけ、息継ぎができる。一緒に悪い気も抜けていけたら。そんな重々しいひと呼吸。


 難しいことはニコルにはわからない。雰囲気作りが精一杯。


「とりあえずさ。どんな感じになるのか聴いてみたら? もうやったの?」


 そういえば最初以来、ブランシュとは今日までほとんど交流がなかった。任されたシシーとしてもそれはありがたい。


「いや、まだだ。途中経過を含めて一度披露してみようか」


 自分の演奏と歌が重要となるのであれば、方向性を見る点でもそれは有効。完成まではもう少しかかるとしても、今を確認してもらいたい。


 若干元気が出てきたブランシュ。未熟なことはわかっていたはずなのに。先ほどよりも視野が広くなったことに気づく。


「はい、ありがとうございます」


「ふふ、お手柔らかにね」


 イスに座り直すシシー。この恋心。今は。キミのために。

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